法政大学教授 岡崎 昌之 (第2657号・平成20年10月27日)
全国町村会の調査の一環で、フランスの小さい村々を訪れた。フランスにはコミューンと呼ばれる自治体が3万7千も存在しているから、その多くは人口千人に満たない小規模な町村となる。縁あって今回訪れたのは、フランス西南部の中心都市ボルドーからさらに南へ約120キロ、スペインとの国境をなすピレネー山脈もうっすらと望見できるMontaut(モントー)村だ。トウモロコシ畑の続くなか、小高い丘にたつ教会を中心に、人口610人の落ち着いた生活の流れる村である。
村長さんは女性のクロード・ボアソー氏。パリの有名なアメリカンホスピタルで事務部門の責任者として永年働き、リタイアーのつもりでご主人と、気候のいいこのモントー村を選んで2年前に移住してきた。空き家になっていた神父の館を買い取って、美しく改修を施し生活を始めた。
住み始めて1年半、村人から相談があり、押し切られて今年3月、村会議員になるとともに互選で村長に選ばれた。利害関係は全くなく、外からたまたま移住してきたクロードさんの目には、モントー村は新鮮で、可能性に満ちた美しい村に映った。しかし20年近く、全て自分で決めてきたワンマンな前村長のおかげで村は停滞していた。
15人の村会議員全員で月1回の議会を開き、財政、文化、住民組織、施設管理等々を議論する。議員のうち4名の村長補佐との議論は、時に深夜まで及ぶこともあるという。村づくりの目標は、事故や災害から村民を守る安全性の確保、そして村の活性化。商店街の復活、宅地分譲、日曜朝市の開催などに熱心に取組んでいる。新しくカラーの村広報も発行し始めた。
クロード村長のもう1つの悩みは、政府が進めているコミュニテ・デ・コミューン、広域自治体連合のことである。5千人の町Saint-Sever(サンスベ)を中心にモントーを含む15の村、1万1千人で連合を組み、道路、経済発展、観光、社会福祉等の事業を広域で実施している。しかし村民からは村への愛着から、暮らしの近くに政府があって欲しいという要望が多い。
永年パリで培ってきた幅広い視点で、このモントー村を客観的に見詰めながら、その可能性を真摯に追求する女性村長の新しい村づくりに期待したい。