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「母ちゃん市場」

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年3月19日

法政大学教授 岡崎 昌之(第2593号・平成19年3月19日)

山形県南部、朝日連峰と飯豊連峰に囲まれた中に小国町はある。面積は740平方キロと広大で、東京 23区はすっぽりとその中に入る。文禄4年(1595)編纂の『邑鑑(むらかがみ)』に記載されている現町内の集落は約60にのぼり、その殆どが現存する。その後、開発された集落を併せて昭和40年には117集落あったが、集落移転事業や自然消滅で100を切ることになり、昨年の豪雪が集落再編の動きを早めている。

そんな厳しい山村経営のなかで、 ここでも元気なのが女性たちだ。地元の農協女性部を中心に結成された16名の「母ちゃん市場」の活動が注目を集めている。

採れ過ぎの自家野菜を棄ててしまうのは勿体ないと、力を合わせて直売 所を開いたことが切っ掛けとなった。

豪雪地帯なので冬期間は難しいが、駅前や町立病院で週2回市場を開設する。豊富な季節野菜、キノコ、山菜、花卉類を販売する。 こうした元気な農山漁村の女性グループが全国に生まれ始めている。

遠野市の道の駅「風の丘」で夢咲き 茶屋を経営する「綾織・夢を咲かせる女性の会」は東北を代表する。北関東、栃木県茂木町でも「有機リサイクルセンター美土里館」とタイアップして、花や野菜の販売を担う女性たちが活躍している。四国、愛媛県内子町の「からり」も地元の農業女性が主力で、広島市や松山市からも客を集めている。

現在、9兆円といわれる日本の農業産出額からすれば、これら女性たちが扱う直販所の売上は僅かなものだろう。しかしそこには日本の農山漁村の再生を指し示す幾つかの重要な示唆がある。

ひとつは、ここで扱われている農産物は、低農薬、新鮮、高品質、高付加価値で、都市住民と直結する新しい流通ルートを築きつつある点だ。もう1点は、自分達の意思と自覚で活動し始めた女性たちの地域社会での発言力の拡大である。ともすれば男性中心であった集落に女性の目による集落再生の道筋が見え始めた。 

「母ちゃん市場」の売上げも昨年は300万円、今年は何とか500万円を目指す。そのうち海外旅行でも、と夢は膨らむ。