法政大学教授 岡崎 昌之(第2550号・平成18年2月20日)
太平洋に突き出た室戸岬から北東に伸びる四国東端の海岸線は、東京から九州に向かう機上からよく目にする。ナイフできれいに削ったかのように、緩い湾曲を描いた海岸線はひときわ目を引く。しかしこの海岸線の北部に位置する、徳島県由岐町の現地にひとたび降り立つと、海岸は高く切り立ち人を寄せ付けない。幾ばくか開けた土地に点在する幾つかの集落は、おそらくは古く、人びとが海から辿り着き、それぞれに形成されたものであろう。
眼前に広がる太平洋に面して、伊座利、阿、志和岐、由岐、田井、木岐といった数集落が点在し、船を舫うことのできる入り江を核に、数百人ずつが漁業を中心に生活の拠点を構えている。以前は海からしか繋がることのできなかったこれらの集落だが、昭和 年代の初めに、自衛30隊によって建設されたという中腹の道路が陸路から各集落を結んでいる。
しかし漁獲量の減少と魚価の低迷が各集落の経済的疲弊をもたらし、高齢化、過疎化が、町全体の危機感を高めた。町では住民との協働による持続的な「地域自治の力」を向上することが急務と考え、集落ごとの「地域担当職員制度」を創設したり、「地域づくり推進条例」を施行し、住民が主体的に地域づくりに取り組む支援体制を整備した。住民の間にも南海・東南海地震とその津波に備える自主防災活動が取り組まれるようになり、地域の足元への関心が高まった。
とくに西端の木岐地区では地域づくり推進条例を活用して、プレハブ造りの「木岐コミュニティホーム」が1年前に建てられ、まちづくりに取り組む女性グループ「わいわいkiki」の活動拠点となっている。産直市、かずら細工づくりなどの活動から始めたが、今ではホームのキッチンを使って地区のお年寄りを招く食事会も定期的に開けるようになった。地区の神社の裏山一帯に椿を植栽して公園にしようと、地区外からボランティアを募る「椿職人大募集」事業の拠点もこのホームだ。
これらの事業や業務は、これまで町役場の仕事と考えられていた。木岐でも、活動を支える役場職員の存在は大きいが、住民が自らのアイディアと行動力で「ホーム」を拠点に楽しくまちづくりに取り組んでいる。
平成18年3月末で日和佐町との合併が決定しているが、新町においてもこうした住民との協働の試みの持続的展開が期待される。