法政大学教授 岡崎 昌之(第2537号・平成17年10月17日)
今夏、久しぶりにヨーロッパを訪ねてみて、自転車の復活と普及に驚いた。車の渋滞が激しかったパリの街中にも、バス専用レーンが積極的に導入されると同時に、パリ市役所、バスチーユ、ルーブルなどパリの中心部に、自転車専用レーンが多く設置されている。とくに若者たちが、車を自転車に乗り替え、颯爽と走っている。
自転車といえばオランダが有名だ。国土は平らで自転車に適し、電車への持ち込みが許されるなど、以前から自転車先進国だ。国民1人当たり1台という保有率は世界一だそうだ(オランダ政府観光局)。首都アムステルダムでも、自転車による3時間かけての市内巡りツアーが人気を博している。
そうしたオランダのなかでも、自転車中心の地域づくりを進めている町として注目されているハウテン市を訪れた。アムステルダムから南に約40キロ、オランダの地理的中心部に位置する。かつては4千人ほどの田舎町だったが、80年代から職住近接型ニュータウンとして開発され、現在ではオランダ政府の将来都市づくり地区の指定を受け、人口も43,000人となっている。面積約800ha、周辺を15キロの環状自動車道が囲む。自転車中心の町らしく1人当たり2台の保有率ということであった。
町の中心部には鉄道駅があり、15分間隔の列車がユトレヒトやアムステルダムと結ぶ。駅周辺には市役所、学校、図書館など主要公共施設が集まり、ここを拠点に3.5キロの主要自転車専用道が張り巡らされている。住宅地は自転車道に面するようにクラスター状に配置され、環状自動車道から住区部分に入ってきた車は、もう1度、環状道に出ないと、他の住区には行けない構造になっている。町の中を移動するには、歩くか自転車によらざるを得ないわけだ。
車を規制した安全な自転車の町なので、子育てには安心感がある。人口の15%は10歳以下で、小規模な幼稚園や小学校が町のそこかしこに配置されている。車椅子で移動するにも便利で高齢者や障害者にも住み易いと好評だ。それにも増して、自転車移動の利点は、住民が直接顔を合わすことが出来る点で、それにより気楽で親密な人間関係が形成され、地域社会の安全性につながるという、担当者の説明が印象的であった。