法政大学教授 岡崎 昌之 (第2515号・平成17年4月4日)
合併を間近に控えて、公民館の大広間には、不安げな面持ちの住民が、休日にもかかわらず多数詰め掛けていた。大広間の正面には「住民自治を考える・まちづくり塾~合併後の地域をみんなで守り、育てるために~」という看板が掲げられている。住民代表が次々に登壇して、自らが取り組むまちづくりの現状を報告した。
広島県境に接する島根県西部の旭町でのことである。旭町は2005年10月、浜田市他の2町1村と合併することが決まっている。4万7千人の浜田市に対して旭町は3千2百人。合併後もこれまでの旭町の特性や伝統、文化を活かしたまちづくりを失ってはならないと、岩谷義夫町長は合併協議会の経過の中で「自治区制」を主張してきた。地域の実情と住民の実態を知る人が元の町村を自治区として運営し、一定の権限と予算を持って従来のサービスを提供しようという構想で、新市でも認められた。自治区長の身分は助役としている。この浜田那賀方式の合併後の仕組みは、いわば地域内分権といえる。
それにしても重要なのは、住民自らが自らの手で地域を築いていこうとする「地域の力」だ。そこを住民の間で確認しようと開かれたのが、今回の「まちづくり塾」であった。町内市木地区からは、23年続いたふれあい祭りの苦労や、多くの客を呼んだほたる祭りの報告があった。木田地区からは、ふるさと歳時記伝授道場での豆腐、田舎饅頭、味噌づくりの取組みの発表。都川地区では、昨年夏に地区として受入れた都市部の大学生のインターン事業、棚田祭り、ガソリンスタンドの経営など、ユニークな取組みが紹介された。
もちろん悩みもある。Uターンで帰ってきたが、若い人に地区の役が集中して忙しすぎる。前年踏襲の事業が多く、若い人の意見が取り上げられない。イベントが多く疲れてしまう。全町挙げて頑張ってきたまちづくり組織は合併後どうなるのか?といった意見も多く出た。「自治区制」を基礎に、町内のそれぞれの地区が、旧来の地縁型自治組織を乗り越えて、自立性と自律性を高めた、新しいまちづくり組織を模索することが