法政大学教授 岡崎 昌之(第2492号・平成16年9月6日)
住民との情報共有がまちづくりの基本と考え、情報公開条例やまちづくり基本条例を制定し、地域社会の新しい姿を模索してきたのが北海道ニセコ町である。現地にはそのまちづくりを学ぼうと、自治体関係者やインターンシップの学生が数多く訪れている。
まちづくりを牽引するニセコ町役場の外観は、お世辞にも立派とはいえないが、最近、その向かい側に洒落た図書館が誕生した。施設の正式名称はニセコ町学習交流センターという。旧郵便局舎を町で取得し、1億6千万円かけて増改築し、施設の再利用を図った。住民を含めた検討委員会で協議を重ねた結果、町民センターから移した図書室を中心にする図書館機能と、情報公開に対応した公文書の保管、開示場所を主要な内容とすることとし、施設の愛称も、ブックで遊ぼうと“あそぶっく”に決まった。
この施設の運営に当たっているのはボランティア・グループ「あそぶっくの会」だ。お母さん達7人で作った読み聞かせの「お話の会」のメンバーが母体となっている。検討委員会では様々な議論があったが、町と密接な協働関係を保ちながら、67名からなるボランティア・グループが、選書や札幌の道立図書館との連携、イベント企画など、多様な業務をこなしている。運営経費は町が委託料として支払い、カウンター業務など負担の多い一部会員には謝金が支払われる。
地域の図書館は行政や専門家がきちんと運営すべきだという意見もある。しかし日中の利用者は母親や子どもが中心、また町民サロンとしての住民交流の場という機能を考えれば、ボランティアによる親しみ易い対応のほうがニセコ町には合っている。
地域における住民サービスを担うのは行政のみではない。ボランティアが図書館活動を通じて、子どもとともにニセコ町の将来を考える。従来の地区の枠を超えて、女性や若者、子どもたちが町内外で交流する。こうした地域社会を巡る新しい活動や仕組みが、新たな公共空間を創出し、これからのコミュニティ・ガバナンスの原点となるであろう。多様で豊富なコミュニティ・ガバナンスのあり方が、今後の自治体のあり方を変えて