ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > ゲリスリードのツーリズム

ゲリスリードのツーリズム

印刷用ページを表示する 掲載日:2000年10月23日

ゲリスリードのツーリズム

福井県立大学教授 岡崎 昌之 (第2333号・平成12年10月23日)

ゲリスリード村は人口1,200人、南ドイツの小さい農村である。バイエルン州の南部、ドイツ有数の観光地ノイシュヴァーンシュタイン城から西に、車で1時間ほどの距離にある。周囲は牧草地を中心にしたなだらかな農地が広がり、その景色にアクセントをつけるかのように林が点在する。南を向けばドイツアルプスの高い峰が望見できる。教会の尖塔を囲むように家々が寄り添い、集落の中心には広場とラートハウス(村役場)が位置し、仕事を終えた人達が居酒屋に集っている。

約束の時間に少し遅れて、人のよさそうなクグラー村長が入ってきた。今日は村で結婚式があり、人手がたらず、乳牛の搾乳にてまどった、と申し訳なさそうに謝った。村に入ってくる道すがらの、農地と家々の佇まい、道や周辺の木立の美しさは息を飲むほどのものであった。それもそのはず、村長に聞いてみると“我が町を美しく”のコンクールで、1996年から郡内、州内そしてドイツ国内で金賞や銀賞を取り続けている村だそうだ。村内の11のクラブが自主的に村づくりに協力してくれると、誇らしげに語ってくれた。村の美しさを資源に、農家民泊を中心とした観光事業にも乗り出した。

その夜の農家民泊ウンジンさん宅は、清潔な風呂と心地よいベッドを提供してくれた。翌朝、牛の鳴声と教会の鐘で目が覚め、戸外に出てみると、農家経営の中心となっている若夫婦が、作業着姿で搾乳に精を出していた。その合間にも、しぼりたての牛乳を町の人たちが買いに来る。終わると早速、老夫婦が牛たちを牧場へと追っていった。我々の朝食にも早速その牛乳がふるまわれた。気がついてみると家の人達は、バイエルンの郷土衣装に着替えてもてなしてくれていた。この村に比べると、はるかに都会のアウグスブルクから来たというお嫁さんは、都会よりこの農村が大好きだと、3人の子供をしっかりと育てていた。

過疎化や農産物価格の低迷など、厳しい農業環境の中にありながら、農業と景観を中核に据えたゲリスリード村のツーリズムは着実に展開しそうだという確信が持てた。