福井県立大学教授 岡崎 昌之(第2274号・平成11年5月31日)
中心市街地の空洞化が全国で大きな問題となって久しい。政府でも中心市街地活性化法を制定して、その再生に取り組もうとしている。多くの地方都市が、この法律を念頭におき活性化の方策を求めて、計画づくりに躍起になっている。しかし現実には大型店は依然として郊外立地を進め、消費者もそれら郊外店に詰め掛けるという図式は変化していないように見える。
このあおりを受けて、中心部が空洞化しているのは県庁等が所在している中核都市や第2、第3の地方都市だけではない。それ以上に多大な影響を受けているのが、地方都市に連なる町村の中心部だろう。施設を改良する余力はなく、後継者もいないといった状況だ。これまで辛うじて維持してこれた街中の商店街が、壊滅的な状況になっている現場を多く目にする。
そんな地方都市や町村の事態の中で、注目される1つが「アーバン・ツーリズム」という主張だ。これまで観光といえば大自然や古い神社仏閣を目指す場合が多かった。それを人の集まる都市自体、また都市のもつ文化を観光のターゲットにしょうという発想である。アーバン(都市)ではあるが、必ずしも都市部の話や発想だけに留めておくのは勿体無い。町村にも是非取り入れて考えてみてはどうだろう。
町中の古い路地や界隈、街並みや美しい民家、伝統工芸品やその製作現場、昔からの祭り、婚礼や祭りのときに供された郷土料理等々、日本の各地方には素晴らしい蓄積が、地層のように埋まっている。こうした地域資源を年間を通じて、有機的に結びつけ、ツーリズム(新しい観光)という、地域の外と結び合う仕組みに仕立て上げることが、これからの町村に問われている。
因みにアーバンという言葉の中には、都市という意味だけではなく「丁寧で磨きのかかった」という意味もある。都市的生活とは丁寧で磨きのかかった生活のことであり、これは今後の日本の地方にも問われることである。