福井県立大学教授 岡崎 昌之(第2269号・平成11年4月19日)
西暦2000年はコンピュータの誤作動等が懸念され、大きな社会問題となる事も予想されている。年末から年始にかけては、長距離の飛行機など乗らない方がいいといった話が、まことしやかに飛び交っている。また公的介護保険のスタートや地方分権計画の具体化など、2000年は地方自治体にとっても大きな節目の年となる。
2000年を何とかやり過ごすと、いよいよ2001年となり新しい世紀を迎える。世紀が変わるということは、それなりに人々に様々な思い入れをもたらす。情報公開やNPOへの期待など、新しい計画やこれまでに無かった試みも始まろうとしている。21世紀を目途に入れた自治体の総合計画の策定など、多くの市町村で取り組みが始まっている。余談だが、あの美味しい鳥取産の梨“20世紀”のブランド名はどうなるのだろう。
日本や世界が新世紀問題を迎えることで賑わっているさなか「21世紀などど、なんて近視眼的なことを言っているのか」と大きく構えている町がある。福井県今立町だ。町内の住民グループからの提言を受けて策定した町の計画は、何と一千年先、「31世紀をめざし、自然と共生するまちづくり」となっている。“31世紀”という標語だけだと、大言壮語の感、無きにしもあらずだが、町の成り立ち、特徴を聞いてみると、妙に納得してしまう。
今立町の特産のひとつは千数百年の歴史を持つ和紙。現在でも全国一の和紙の産地である。紙漉き職人希望の若い人も入り始めている。著名な日本画家の使用する和紙は、殆どが今立で漉かれる。横山大観も気に入った和紙が漉きあがるまで、今立に長逗留し、和紙のお礼に強大な石を、紙漉きの神を祭った大滝神社に寄進している。
この今立町で漉く和紙はかるく千年の歳月に耐える。ならば今立のまちづくりも、千年先を視野に入れて考えようではないかという自然な発想だ。千年の時空を越えて町の行く末を思えば、おのずと環境、エネルギー、教育等々、まちづくりの基本を見据えることになる。