ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 地域の不満・大学の不安

地域の不満・大学の不安

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年5月30日

明治大学教授 小田切 徳美(第2961号・平成28年5月30日)

各地で大学と地域の連携が進められている。国や地方自治体による「域学連携」政策も目白押しである。現在では、地域貢献を標榜しない大学を見つけるのが難しいほどである。

しかしながら、それらのすべてがスムーズに進行しているわけではない。むしろ、地域、大学の両者から、戸惑いの声が聞こえる。地域サイドからは、現場からの要望に対して、 大学が直接の解決策を示してくれないという「不満」がある。その前提には、「大学と連携すれば、なんとかなる」という強い期待がある。他方で、大学の教員には「なんでもかんでも頼まれて、 対応しきれない。このままでは自分の時間がなくなってしまう」という強い「不安」が生まれている。この「地域の不満・大学の不安」という構図は各地で一般化している。

こうした問題は、直接的には、両者のコミュニケーション不足による。しかし、そのさらに背景には、大学の地域連携をめぐる変化を、地域もそして大学自体も見逃していることが指摘できる。

そもそも、理系の分野、とりわけ工学や農学等の領域では、大学が産学連携の一環として地域課題に関わることは以前から見られたことである。したがって、現状のように文系学部を含めて、 ほぼすべての分野で地域連携が実践されているのは、大学の別の側面に光が当てられているからであろう。それは、「若者の拠点」という性格に他ならない。

実際、若い学生が、地域の課題を探り、住民とともに問題の根源を発見し、それへの解決策をともに立案するという役割を果たす事例が見られる。大学生である以上は、 なんらかの専門性を持っているのは当然としても、そこでは、まずは「ワカモノ」「ヨソモノ」として、学生は地域に接している。特に、地域づくりに不可欠な、地域の「宝」や資源を発掘する、 ワークショップでの学生の役割は大きい。そして、このプロセスでは、大学サイドも、学生が自らの専門性を高めるという成長過程となっている。つまり、連携により、地域も大学もともに成長・発展している。

ここでは、大学は「特効薬」でも「即効薬」でもない。むしろ、時間をかけて、試行錯誤を許容しながら進められるのが、新しい連携の特徴とさえ言える。そうであれば、実は、 現在見られる各地での「不満」と「不安」は、この試行錯誤の一過程と捉えられる。「不満」「不安」をバネとする、地域と大学の共振的な発展が期待される。