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移住から定住へ

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年1月27日

移住から定住へ

明治大学教授 小田切 徳美(第2867号・平成26年1月27日)

都市の若者が農山漁村に向かう動きがますます活発化している。早くからそれに注目していた編集者の甲斐良治さんは、その傾向は1990年代の中頃には既に見られたという。その後、 それを支える地域おこし協力隊等の制度の登場、そして3.11東日本大震災のインパクトを経て、この動きは、現代の日本社会で小さいながら確かなトレンドとなり始めている。

これにともない、各地から「空き屋不足」の声が大きくなっている。しばしば言われるように、過疎地域の集落では住民の離村により、空き屋は数多くあるにもかかわらず、 それらはなかなか流動化しない。その対応として、自治体による空き屋バンクの設置が活発化しているが、むしろ売買まで行う民間不動産会社の、農山漁村での動きが見られるようになってきた。 空き屋所有者にしてみれば、「貸すよりも売りたい」という状況が生まれているのかもしれない。いずれにしても、このように各地で「空き屋問題」が叫ばれる状況は、「田園回帰」の時代を象徴する。

こうしたなかで、地域では新たな対応が求められている。

ひとつは、移住促進という農山漁村への「入口」の対応だけではなく、その定住の長期化という課題が浮上していることである。単身での数年間という単位ではなく、家族単位での、 より長期の定住のためには、家族のライフコースに応じたサポートが必要となる。とりわけ、子どもの教育費用は大きなハードルとなっている。彼らの大学進学等の学費を奨学金で支えるような仕組みは、 今以上に充実されなければならない。

ふたつは、原点回帰として、地域づくりの一層の前進である。和歌山県那智勝浦町・色川地区の原和男さんは断言する。「若者が本当にその地域が好きになったら、仕事は自分でも探す。地域の魅力こそが重要だ」。 自ら、約30年前に都市から移住し、現在では地域農業のリーダーとして、地区内でいまや3割を占める新規参入者の世話役を務める原さんのこの言葉は重い。 市町村担当者が当たり前に言う「空き屋がないから」「仕事さえあれば」という言葉は、それ自体は事実としても、地域を磨き、その価値を上乗せするという地域づくりの必要性をぼやかしているのかもしれない。

「移住から定住・永住へ」「移住から地域づくりへの原点回帰」。移住促進の取り組みは、いまや新たな局面に入った。このような時代変化を読者とともに共有化したい。