明治大学教授 小田切 徳美(第2605号・平成19年6月29日)
いま、地域コミュニティをめぐる議論が、各方面で拡がっている。マスコミでは、NHKテレビの「ご近所の底力」が早くから地域コミュニティを取り上げて話題となっているが、新聞では、例えば岩手日報「とことん住民力」(全61回の連載)に見られるように、特に地方紙で力作といえる連載が企画され、現場からの問題提起を行っている。
また、行政も動き始めた。総務省は、今年2月にコミュニティ研究会を設置してコミュニティ再生のあり方を検討していたが、先頃、その「中間とりまとめ」を公表した。農水省も、農村におけるソーシャル・キャピタル研究会を開催して、同様に最近報告が行われている。特に、前者では、地域コミュニティによる子育てという伝統的な論点やIT技術をコミュニティ再生に活用するという新しい方法の提案などの幅広い要素が、政策文書らしくない熱い思いが溢れるような筆致で問題提起されており、町村関係者は注目すべきであろう。
このように、現在は「コミュニティ・ブーム」下にある。かつて1970年前後にも、同様に各界でのコミュニティ論議の盛り上がりが見られたことがあり、今は「第2次コミュニティ・ブーム」といえよう。
こうした状況の背景には、農山村のいわゆる「限界集落」を典型とするコミュニティ機能の脆弱化、都市における町内会活動の形骸化、しかし、他方では分権改革、市町村合併の進行の下で、住民自治の強化が、地域コミュニティを受け皿として、強く期待されるという状況がある。こうした様々な要素から、地域コミュニティが一挙に耳目を集め始めているのである。
しかし、筆者は、逆にそうした重要な時期だからこそ、コミュニティ行政の先達の言葉を思い出す。地域コミュニティづくりで、著名な広島県安芸高田市の児玉更太郎市長(元高宮町長、元全国町村会副会長)が、私の目の前で、地域住民に語りかけた次のことである。「コミュニティづくり・自治づくりは、『一生もの』です。疲れないように。頑張りすぎないように。皆さんのペースで育ててください」。地域自治組織の運営で、既に大きな成果をあげている地域からの発言であるがゆえに、特に強い説得力を持っている。
住民自身による地域コミュニティづくりは、「焦らず、力まず、諦めず」。「第2次コミュニティ・ブーム」のなかで、住民自治には行政の思いと異なるスピード感もあることを、あえて強調したい。