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中山間地域等直接支払制度の評価視点

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年8月4日

東京大学大学院 助教授 小田切 徳美 (第2449号・平成15年8月4日)

中山間地域等直接支払制度の見直しが、地域でも話題になり始めている。

2000年度に5年間の予定で導入されたこの制度は、早くも来年度には次期対策に向けた見直しが予定されている。特に自治体レベルでは、4年目の推進活動は実質的に終わっており、担当者の関心は、今後の制度のあり方に急速に移り始めている。

しかし、具体的な見直しまで幾分の余裕のある現時点では、制度の実績とその評価視点についての、基礎的な検討こそが必要であろう。

その点で、本制度による様々な実態変化の中でも、対象地域で集落等における話し合いが以前より活発に行われていることは、注目すべきである。それは直接には交付金の使途についての話し合いであろうが、一部ではその議論は地域や農業の将来まで及んでいる。

つまり、中山間地域では、集落の寄合の空洞化(回数の減少や議題の形骸化)が進んでいるが、本制度はその傾向に何らかの影響を与えているのである。

このような状況を、寄合回数を指標として計量化することは不可能ではない。しかし、ここで評価すべきは、それにより再構築された地域内の人間関係等の質的側面である。

実は、こうした点を意識的に評価することは、世界銀行やOECDなどの国際機関を含めた国際的潮流である。それは、「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」論と呼ばれており、地域社会における人的ネットワークや社会的な規範・信頼などを「資本」としてとらえている。そして、この理論では、「資本」の増大が、暮らしやすい豊かな地域社会を実現する基礎的条件であると、積極的に位置づけているのである。

このように、「ソーシャル・キャピタル」の増大とそれへの支援が、地域開発(地域づくり)に関する国際的課題となる中で、中山間地域等直接支払制度は、日本の条件不利地域で低下しつつあった「ソーシャル・キャピタル」の再蓄積にかかわったと評価することもできるよう。つまり、この制度は、国際的にも意義のある大きな実践であると評価される可能性を持っている。

「カネ目」にかかわる見直しを前にして、現時点は、こうした基礎的な議論こそ要請されていよう。