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コミュニケーション・ギャップ

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年4月18日

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2957号・平成28年4月18日)

最近『交響する都市と農山村』という本を出版した。編集の過程で、都市と農山村とを行き来する多くの人々と対話を重ねたが、その中で気づいたことがある。 都市部と農村部ではコミュニケーションの作法が異なっているのである。

都市部では、多くの若者がスマートフォンを駆使し、LINEで連絡をとる。彼らは、物事を相談し、決める際にも「LINEで話し合った」という。LINEはそれぞれが言葉をつぶやくツールなので、 情報を手早く伝達するにはよいが、何かを話し合えるような道具ではない。にもかかわらず、相談や連絡、意見調整をLINEで行おうとする。若い世代を中心に、面と向かって対話し、話をする機会が決定的に減少し、つぶやき型で、 時に独り善がりのやりとりが増えている。

一方、農村にいくと、とにかく面と向かって話をする機会が多い。会合も多く、連絡が取れない場合には電話である。パソコンやインターネットが普及する以前の、直接的な対話を中心とした社会が、 ここにはまだ在る。無論、これは、農村に高齢者が多いことと無関係ではない。

そんな都市と農村でヒト・モノ・カネ・情報が「対流」するには、両方のコミュニケーションの作法を理解し、そのギャップを埋める「バイリンガル」な人財が必要だ。

どれだけ地域に素晴らしい自然・風土・文化が在ろうとも、それが外部に伝わらなければ、発展に繋がらない。役場や農協など、パソコンを駆使する職場もあるが、情報の受発信にはまだまだ工夫の余地がある。 ⅠTツールを介して、顔の見えない人たちと知り合うきっかけを作っていくことが、農村地域に新たな可能性を開く。

他方で、LINE等で間接的なやりとりばかりをしてきた都会の人々は、面と向かって人と対話することが得意でなくなっている。事前にメールでアポを取ってからでないと、相手に電話をかけられない若者もいる。 直接的な対話の機会を持つことや、相手の言葉をゆったりと受け止めることを一から学ぶ機会が必要なこともある。若者の移住・定住を推進する動きがあるが、農村で都会の若者を受け入れるには、 このギャップを埋める工夫も求められている。

地域づくりには、二つのコミュニケーション作法を体得した「バイリンガル」な人財が欠かせない。地域を歩き、様々な人と対話し、地域の魅力を知る。そして、その情報をウェブサイトやフェイスブック等で発信し、 外部との繋がりを生み出していくこともできる。そんな人財の養成が必要な時代となった。