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縁と円

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年6月29日

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2924号・平成27年6月29日)

神社では、五円玉をお賽銭に、良き「御縁」を祈願するが、実際に円(=金)と縁とは切り離せないものだと感じる。仕事でお金をいただけるのも、多くの人との縁あってのことであり、 反対に「金の切れ目が縁の切れ目」という言葉もある。

ところが、この国では、いま、多くの人が生活の維持に必要な縁を取り結べなくなっている。OECD報告書によれば、2010年における日本の相対的貧困率は16.0%と、OECD加盟国の中でワースト6位。 経済大国でありながら、6人に1人が貧困状態にあるとされる。「民間給与実態統計調査」によれば、年間200万円未満の給与所得者数は年々増加し、ついに1100万人を超えた。 雇用の調整弁とされる非正規雇用は拡大し、労働者全体の35%を占めているが、就労が単なる「労働力」の切り売りとなれば、ご縁を大切にしつつ、安定的な雇用関係を取り結ぶことは難しくなるだろう。

18世紀に『経済表』を著した医師、フランソワ・ケネーは、経済循環を血流に例えた。これに倣い、日本という国を一つの人体と捉え、そこで暮らす人々を細胞に例えるなら、今の状況は、十分な血流が行き届かず、 弱っている細胞が増えているということになる。血流をスムーズにし、多くの「細胞」が、御縁故と金回りのなかで、元気になるための処方箋が求められている。

では町村で何を考えればよいか。まず、地域の金回り(=縁)を見直してみてはどうだろう。人々は財・サービスをどこで購入・獲得しているのか。また地域のなかで不足する財・サービスは何か。 それらを充足するために、地元で仕事を作れないか。仕事を探す人たちに、その役割を頼めないか。財・サービスの生産や消費を媒介に、人々の縁と円(=金回り)を繋ぎ直すことを考える。

さらに、域外との縁を見直すことも大切である。地元の産品やサービスを外に販売できないか。商品の魅力や特徴をどのようにデザインし、伝えれば、外との縁が広まり、深まるか。域外の経済活動に参加し、 外から人を呼び、内と外との縁(=円)を太いものにする。

こうして、暮らしのなかの「縁」と「円」から地域を見直すと、福祉政策も雇用政策も産業政策も、縁結びを通じた社会経済循環の再構築と捉えなおすことができる。地方創生とは、そんなふうに地域を見直し、 新たな繋がりを創ることから始まるのではないだろうか。