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町民医療費の「適正化」に向けた町独自の取組み

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年5月28日

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2801号・平成24年5月28日)

先日、香川県まんのう町で、町民医療費適正化に向けたユニークな取組みについて話を聴く機会があった。

まんのう町では、2008年当時、上昇する町民医療費の負担が課題の一つであった。町の一人当り医療費は県内トップ。これをどう引き 下げるかが課題。そこで、住民に医療費削減に向けたPRを始めたというのである。

まず、町の一人当り医療費が全国平均と比べて25%程度高いことを町民に説明し、それにより、国民健康保険料も高くなってしまうこと、 医療費削減に向けた対応を町民一人ひとりが行うことで、町の一般会計支出のほか、自分たちの保険料負担も引き下げられることを説明して 回ったという。さらに、町では調剤費と入院費が他の地域に比べて高く、この2つを引き下げる取組みが必要であるとの説明を行った。

無論、そのような説明会を一方的に企画したところで住民が集まるものでもない。そこで、自治会や商工会の会合はもちろんのこと、 地域で数名程度の集まりがあれば、夜間休日を問わず、会場に役場職員が出向き、15分程度の時間をもらって町の医療費の実態やその削減 に向けた工夫について一目でわかるグラフや表を用いて話をしたという。

すぐにできそうな取組みとして、まずかかりつけ医に診てもらうこと、重複受診をやめること、ジェネリック医薬品への変更を医師に お願いすること、予防のための特定健診を受診することの四つを掲げ、一人当り医療費の水準を県平均まで引き下げることを目指そうと話を したそうだ。また「ジェネリックください」と書かれたカードを用意し、病院で提示できる仕組みもつくった。地道に積極的な取組みを行った 結果、医療費引下げに成功し、県内でトップだった一人当り医療費は、2011年度には県内第4位まで下がったという。

無論、町でどれだけ地道な取組みを行おうとも、病床数の増加や長期入院患者の出現等により、特に規模の小さい町村部の場合、一人当り 医療費は跳ね上がるとの指摘もある。しかしながら、役場が保険者として、医療サービスの利用と保険料負担について考える場を作ったことの 意義は大きい。住民一人ひとりが受益と負担の関係について理解し、給付と負担の在り方について考える機会を持つことで解消される「無駄」 もある。一人ひとりが無自覚にサービスを利用すれば、支出は膨張し、保険料や租税負担は上昇し、結果的には行政に対する不満や不信が高 まることにもなりかねない。

国が進める社会保障・税一体改革をみていると、住民(国民)不在のまま、財政再建ありきの議論が行われているようにも見える。自治体 の地道な取組みを通じたガバナンスの構築が必要であり、まんのう町のとりくみに、一つの可能性を見た思いがした。