東京大学名誉教授 西川 治 (第2349号・平成13年3月12日)
新世紀初頭にめでたく創立80周年を迎えた全国町村会、その設立の端緒は、小学校教員俸給国庫負担の増額運動であった由である。
来年度からは新学習指導要領に基づく“ゆとり教育”が始まる。それに関して、学力低下、選択科目や総合学習、習熟度別の指導などをめぐる議論が盛んになった。
今回の改正は、高度経済成長と大都市化時代から、うっせきしてきた弊害の是正をはかる対策であろうが、そのモデルとなりえる事例は、むしろ郡部において早くから各地で実践されてきたように思われる。たとえば、昭和62年10月、福岡県久山町の新しい小学校を小早川町長のご案内で視察したさいに、それを実感したのである。
昨年の11月には、32年の伝統を誇る鳥取県地域社会研究会主催の県下児童生徒たちによる地域研究発表会と地域地図作品展を見学して、この持論に自信がついた。
その発表会場は県立博物館、地図展は新設の市立歴史博物館。小学校の参加は六校、発表テーマは、「中山町のきた道行く道― 市町村合併を考える―」、「ナシ農家100軒に聞きました」など現代的課題が目立つ。とりわけ、智頭町立山郷小学5、6年生12名による「伊能忠敬の測量した道―智頭街道の宿場町―」と、そのさい展示された7枚の地図作品はすばらしい。すなわち、伊能図と現代図、当時一行が歩いた所の特産物と郷土料理一覧、鳥取城下、河原、用瀬、智頭、野原、駒帰の各宿場町と忠敬止宿地の復原図である。これらは“伊能ウォーク”のまさに学術版であり、その先駆的モデルとして今後各地で参考にされるであろう。
こうした児童生徒たちのフィールドワークは、地域おこし、福祉や環境行政などにも役立つにちがいない。とかく陰惨な例外的事件を執拗に報道するマスコミの眼を、逆に明るい創造的な教育活動にもっと向けさせたいものである。