ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > にぎみたまの世に

にぎみたまの世に

印刷用ページを表示する 掲載日:2001年1月29日更新

東京大学名誉教授 西川 治 (第2343号・平成13年1月29日)

21世紀、ただ21世紀とて明けにけり、との感が深い。では一体、21世紀とは何かと訊(たず)ねても、答えてくれる人はまれである。反問されると困るので、1つの“変答”を用意して、その骨子は年賀状で披露しておいた。

まず、この地球化時代にいつまでも西暦ではあるまいというわけで、今年は地球暦(地暦)元年と勝手に決めた。そして、多種多様な民族が共存共栄する地球社会の理念となるべき語句を選んでみた。すなわち、敬天愛地、安土敦仁、一切種智、汎和御魂、坤輿混同の5句である。

敬天愛地とは、天地創造の神話時代より人類共通の宗教的根源である。敬天の方は、100億光年をこえる神秘な宇宙観の拡大とともに深まるばかりである。一方、万物の母、大地の女神ガイアに対する敬愛の念は薄れるばかりか、その美貌を汚し、ろうぜき衣装を引き裂き、乱暴狼藉。ようやく自らの環境破壊と気がついても、“地球にやさしく”、などと忘恩不遜な態度を改めない。郷土・国土愛、大地愛の教育にもっと努めねばならない。

“土に安んじ仁に敦(あつ)し”、とは楽天知命につづくもので『易経』からの引用。土は“クニ”であり郷土であり、境遇、環境に安んじることによって、周囲の人々をいつくしみ愛するようになるのである。

一切種智(『法華経』薬草喩品)とは、すべてのものを平等に見るとともに、個々の特性を細かく見分ける仏の智慧である。個性を無視した安易な平等主義、各論ぬきの総論、浅薄な普遍思想、画一的な文明観の反省なしに、複雑多彩な地球社会をまとめることはできない。そのためには、わが古代より尊崇されてきた和御魂(にぎみたま)、精熟温和な徳を備えた神霊の汎き加護も請わねばならない。

いま地暦元年、3,000年紀の年頭にさいして、万物をのせる坤輿(こんよ)(地球)には、創造的多様性を展開しながら、真に混同融和した地球社会がとわに繁栄するよう、切望する次第である。