帝京大学教授・バーミンガム大学名誉フェロー 内貴 滋(第2903号・平成26年12月22日)
衆議院が解散される直前、「地方創生法」が成立した。地域の振興を図る方針を掲げ、所要の予算措置を講じる国の姿勢は評価できるものの、自治体は大事なものを失ってはならない。
1.自治体は消滅しない―小さくとも自信を持って
筆者は、かつて過疎市町村率全国1位の大分県地域振興課長として、一村一品運動を企画し、また、 竹下内閣の「ふるさと創生」の担当企画官として「ふるさと創生1億円事業ー正式名称は『自ら考え自ら行う地域づくり事業』」を立案した。
「なぜ、人口300万の横浜市と253人の青ヶ島村が同額の1億円なのか」「どんなに小さくとも自治体はその責務を果たします」ふるさと創生での国会質疑である。 また、一村一品運動を立案した当時、大分県姫島村に人口問題の専門家と称する学者が来た。「人口が3千人以下の自治体は、人口が減少する一方である。」しかし、事実は違った。 民間が失敗したクルマエビの養殖事業を町が引継ぎ、何度も失敗したがついに成功した。国東半島に新空港ができ、おが屑に入った生きたエビが東京や大阪の食卓に上った。 そして、次男坊団地が出来、最も人口の少ない自治体の人口が増加したのである。
2.地方創生とふるさと創生の相違―「自ら調べ、 自ら考え、自ら行う」
地方創生は、国が総合戦略を示し様々な振興策を提案し中央官僚を派遣する。至れり尽くせりである。一方、ふるさと創生は市町村に自ら考えることを国が要請し、自治体を突き放した。 これは1億円の原資が地方交付税であり国が使途に口を差し挟めないからでもあるが、 本来の目的が地方には国に負けない企画力があることを示し「国が考え、地方が実施する」ではなく「地方が考え、国が支援する」新システムに転換することにあったからである。 自治体は住民の移動調査を行い、なぜ住民が村を出ていくのかを地道に調べた。そして、自らの地域の良さと課題を認識し、議会と住民とともに振興策を真剣に考えた。 企画会社に委託した市町村は一つもない。自治体は毎日、住民の涙と笑顔に接している。だから、自らの責任で自らの政策を立案し実行できるのだ。最も大事なことを忘れてはならない。
3.霞が関に負けない気概を
35年前、米づくりを止め、花きに転換しようとした大分県大山町。「食管会計で対応している。例外は認めない。」と反対する国に町長は屈しなかった。「中山間地の米作りでは次男は残れない。 子供たちの未来のために挑戦するのです。」当時のパスポート取得率の全国1位は東京ではない。「梅、栗植えてハワイに行こう!」のこの町である。
今でこそ全国に知られる観光地:大分県湯布院町。ゴルフ場開発で土地を売る動きが始まる。町は悩んだ末、 素晴らしい自然を活かした町づくりの道を選び土地開発規制条例を立案した。「私権制限は憲法違反の懸念」と撤回を迫る所管省庁に対して、 町の職員は負けなかった。「法律知識は劣るかも知れませんが、住民皆で議論を尽くし町の未来を決めたのです。国は町の将来に最後まで責任を持っていただけるのですか」
当時の先駆者の思いは現在も全国で引継がれている。自らのまちに責任を持つのは国ではなく自分たちだ。その気概を失ってはならない。