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地方の時代

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年3月28日

筑波大学名誉教授 村上 和雄(第2954号・平成28年3月28日)

2015年ノーベル賞の生理学・医学賞は大村智氏、物理学賞は梶田隆章氏が受賞した。この二人の共通点は、地方の国立大学の出身であることだ。最近6年間の日本人ノーベル賞受賞者6人の内4人は、 地方国立大学の出身者である。

特に、ユニークなのは、大村氏の経歴である。大村氏は農家の長男で、高校3年生まで大学を受験する気は無く、大学に入ってからもスポーツに熱中していた。

大村氏は大学卒業後、夜間高校の先生を経験しており、研究エリートコースを歩んでいない。夜間高校生の真剣に学ぶ姿に感動し、研究者の道を歩み出したのである。

大村氏の研究現場は北里大学・北里研究所で私立だった。私立大学は国立、特に有名国立大学にくらべ研究環境がよくない。それを補うために、アメリカの有名な製薬会社メルクと共同開発を始めて成功した。 今回の受賞も、メルク社のウイリアム・キャンベル氏との共同受賞である。

当時、産学共同研究をするのは困難であったが、あえて困難な道を選んで成功した。

それと、大村氏は微生物を尊敬しようとする研究の姿勢があった。第3の抗生物質(イベルメクチン)を発見したが、イベルメクチンを作ったのは微生物である。 イベルメクチンを10億人の人々に無償で提供し、2億人の人を失明の危機から救った。

また、教育者としても優れており、大村研究室から多くの研究者を育て、120人の博士と31人の教授を出した。この数字は、1研究室からとしては破格である。 これには大村氏の後継者を育てようという熱い思いがあったのだろう。さらに、いやなことは何でも自分が一番先にやり、仕事は人のため、世のために役立つことをやりなさいという祖母の教えがあった。