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ダライ・ラマ法王と科学者との対話 

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年12月10日

筑波大学名誉教授 村上 和雄(第2822号・平成24年12月10日)

2012年11 月6、7日の両日東京で「ダライ・ラマ法王と科学者との対話~日本からの発信~」が開催され、私が実行委員会の委員長を務めた。

分野の異なる11名の科学者が一堂に集まり、延べ3,500人の一般の人の前でダライ・ラマ法王と対話をするのは、日本初だけではなく、世界でも珍しいことである。 この対話の成果は、2013年講談社から出版されることになっている。

20世紀を代表する科学者アルバート・アインシュタインは次のように述べている。「宗教抜きの科学は目が不自由も同然であり、科学抜きの宗教は足が不自由も 同然である」。アインシュタインがこう言ったからと、それを無条件に信じるのは科学者のとるべき態度ではないが、アインシュタインは、世界の諸問題を 解決するには、愛や慈悲のような心と科学や技術との両方が必要であると云いたかったのであろう。これはダライ・ラマ法王の考え方と同じである。

毎回、お会いして驚くのは、ダライ・ラマ法王の科学に対する造詣の深さである。例えば、ダライ・ラマ法王は「仏典のある個所が、現代科学の見地から 明らかに矛盾する時は、仏典の方を変える用意がある。そして、私自身も仏典の中には、理解できないところがあり、科学的な説明の方が分かりやすい」と 述べておられる。仏陀自身が「私の云うことは無批判に全て受け入れる必要はない、自分で納得いく所だけでよい」と述べておられるとのことであった。

対話の中では法王が科学者であり、科学者が宗教家だとさえ思える場面があった。それは、発表者が霊的治療の有効性について述べると、ダライ・ラマ法王は 「私は懐疑的だ」とはっきり述べられた。また、死後の世界についての質問に対しては「死後の世界など、どうでもよい。大切なことは、今をしっかり生きることだ」 と答えられた。

今回の対話を通じて、仏教には哲学・科学・宗教の3つの側面があることを知った。実は、この対話の準備が遅れ、開催すら危ぶまれる時期もあったが、 多くの人々の献身的努力により、やっと開催までこぎつけた。法王の「来年も是非このような対話を日本で開催してほしい」との言葉をもって成功裏に終了した。