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新型インフルエンザと人体の見事な防御機構

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年9月28日

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2694号・平成21年9月28日)

新型インフルエンザの治療法として、最も期待されているのがワクチンである。ワクチンは多くのウイルス病に対して、きわめて有効な手段である。私たちの身体は、ウイルスの侵入を受けると、ウイルスが身体の中で増え続けないように必死で防御しようとする。

この時、身体がこのウイルスなどの外からの侵入者(抗原)に対する抗体を作っているわけで、この抗体がウイルスを見付けだし、そのまわりを取り囲んで排除する。このように、外からの侵入者に対して抗体の生産を促し、その抗原を排除する能力のことを免疫という。ワクチンは、ウイルスや細菌の侵入を受けたときに、より早く、それらを排除するための人為的な免疫操作に用いられる予防薬のことである。

つまり、ワクチンとは、抗原となるウイルスやその毒素を身体の中で増殖しないように、あらかじめ殺したり、弱毒化した物質のことで、それを身体に接種することにより、抗体の生産を促し、その抗原に対する免疫を獲得させようとするものである。このことは、抗体という物質が、それぞれの抗原を厳密に区別して生産されることを物語っている。

しかし、ヒトの遺伝子は全体で2万数千個しかない。この中から、全ての抗体を生産する機能をまかなわなければならない。どう考えても遺伝子の数が足らない。これは、免疫上大きなナゾであった。このナゾが最近解かれた。人の身体では、抗体を作る遺伝子情報を部品に分けて貯えておき、抗原が侵入してくると、その部品を巧妙に組み立て、なんと約2千万種類の抗体を作る能力を有していることが分かった。抗原の侵入時に、遺伝子組み換えが自然に行われていた。実に見事な防御機構である。そのお陰で私たちは生きているのである。

日頃から、摂生をして体力をつけることにより、免疫力を高めておくことが大切である。そうすれば、たとえウイルスに感染しても病気にならないか、病気になっても軽度ですますことができるのである。