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他人の心を読み取る

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年6月29日

他人の心を読み取る

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2684号・平成21年6月29日)

「感情は風邪のように伝染する」とは、心理学者のダニエル・ゴールドマンの言葉ですが、私たちは他人がおおよそ何を考え、何を感じているのかを瞬間的に理解することができるものです。

最近の脳科学の研究から、私たちの脳にある「ミラー・ニューロン」と呼ばれる神経回路が発見され、その働きがわかってきました。この特殊なニューロンは、他人の行為を鏡のように脳内に映し出し、「他人の心を読み取る」という脳の大切な機能を支えているのです。

私たちはこのミラー・ニューロンという他人を映す脳の鏡によって、他人の行為や意図、感情を瞬時に理解するのです。ゆえにこの能力は、他人と柔軟にコミュニケーションするという人間の本質を支えていると言えるでしょう。ヒトはさまざまな形でコミュニケーションを行います。

日本人はもともと音声によるコミュニケーションが苦手だそうですが、現代人の中には「他人の心を読み取る」ことが難しいと感じる人が少なくないようです。「思いやり」や「他人の心を理解する」ことがなかなか出来ない子供も多くなっているようです。

これは現代の社会や自然環境の変化の中で、私たちの「ミラー・ニューロンシステム」が正常に働かなくなってきていることを警告しているのかもしれません。もしそうだとすれば、ミラー・ニューロンの活動を活性化させることが、老若男女を問わず、現代人には必要だと考えられます。

では、一体どうすればよいのでしょうか。そのきっかけとなるのが、「笑顔」なのです。ミラー・ニューロンによって、表情と感情は伝染していきます。あなたがつまらないと感じそれを表情に表せば、相手もつまらなく感じるし、反対に、あなたが楽しければ、相手も楽しいと感じるのです。だから、話す側だけでなく、聞く側も笑顔でいることが大切なのです。

日本は、今や世界で最も恵まれている国の一つです。たとえ、お金や物が十分無くても、楽しいことは心構え次第でいくらでもあります。

他人の喜びを我が喜びと感じるのはミラー・ニューロンの働きですが、その活動の基盤に、遺伝子が関与しているのは間違いありません。そして、他人の喜びを自分の喜びとして感じるとき、良い遺伝子がオンになっていると私は考えています。