ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > ノックアウト・マウスの創作から学んだこと

ノックアウト・マウスの創作から学んだこと

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年12月25日

ノックアウト・マウスの創作から学んだこと

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2662号・平成20年12月25日)

今年はネズミの年である。それにちなんで、ネズミの医学への貢献の話をする。私どもは、2007年ノーベル生理学・医学賞を受賞したオリバー・スミッシー氏と競い合いながら、高血圧の発症に関係するマウスの遺伝子を次々とノックアウトしていった。その中から、つくば低血圧マウスが誕生した。

今や、一つ遺伝子をノックアウトすることにより低血圧マウスを作製する時代に入った。しかし、予想外のことが起こった。つくば低血圧マウスの挙動がおかしい。これを調べてみると、このマウスが行動異常を起こすことを見つけた。

すべての細胞は全く同じ遺伝情報(ゲノム)を持つが、その遺伝子は臓器が異なれば、全く違う働きをする。遺伝子は臓器によってオンとオフのパターンを変えることが分かり、今や一つの遺伝子が生体内で二役も三役もやっていることが分かりつつある。

そして、非常に多くのノックアウト・マウスが生まれ、そのマウスの解析を進めていく中、またもや予想外のことが分かってきた。実は、私どもの実験は大変幸運に恵まれていたことを後から知ったのである。

その後わかってきたことは、一般に遺伝子とその生体内の機能の関係はそう簡単なものではないということである。 生体内で重要な役割を演じているはずの遺伝子をノックアウトしたのにそのネズミには異常が全く現れない。そのような実験例が次々と見つかった。

生体は一つの機能がダメになっても、それを補うための機能が準備されている。生体の機能は、単なる部品の集まりではない。遺伝子、細胞、臓器などがお互いに支え合い、助け合って、個体を生かすために働いていることを、ノックアウトの実験は私たちにあらためて教えてくれた。