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子供は作れるものではない、授かるもの

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年1月23日

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2546号・平成18年1月23日)

体重60キロの人で約60兆個の細胞を持っています。この細胞1個1個に、例外を除いてすべて同じ遺伝子が組み込まれています。1個の細胞の中心には核があって、その核の中に遺伝子があり、ここにDNAという物質があるのです。DNAには、生命に関するすべての情報が入っていると考えられています。

私たちは元をたどればたった1個の細胞(受精卵)です。その1個の細胞が母親の胎内で分裂を続け、成長していきます。

簡単に子供を作るといいますが、生命科学の現場にいる私たちから見ると、これは正確ではありません。私たちは、ただ授精のお手伝いをしたにすぎません。

そして、胎児に栄養を与えただけです。その結果、1個の受精卵から赤ちゃんが誕生するのです。

子供が誕生するプログラムを書いたのは両親ではありません。そのプログラム通り一刻の休みもなく整然と働いている営みは、人間業を超えた大自然(サムシング・グレート)の偉大な働きという他ないのです。

子供は両親のものだけでなく、宇宙、地球、そしてサムシング・グレートが丹誠込めて作り上げた最高の贈り物です。

生物は約9億年前から、異なる性の結合である有性生殖で子供を産み進化しています。人間も約400万年前から、父親と母親により子供が誕生し現在に至っています。宇宙や地球には法則と呼ばれるものがあり、それらにはマイナスとプラス、陰と陽、夜と昼、男と女など、対称的なものが存在し、そのものがペアとなり働いたり、新しいものを生み出しています。遺伝子暗号も、少し異なる塩基がA:T、C:Gのようにペアとなって存在し、コピーをつくったり、タンパク質をつくって細胞内の化学反応を制御しているのです。

特に人間の場合、立派な成人に育つのに、父親と母親の協力が必要です。少なくとも、厳しい父親的なものと、優しい母親的なものが必要です。男と女が、それぞれの特徴を生かし、お互いに助けあうことが子供を育てるだけでなく、人間が生物として生き残るためにも必要なことなのです。