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「物」から「心」の時代へ

印刷用ページを表示する 掲載日:2005年6月6日

「物」から「心」の時代へ

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2522号・平成17年6月6日)

科学技術は、どんどん進歩しています。それを、人間のより良い暮らしに役立ててこそ、意味があります。ところが、この「より良い」暮らしとは、というと、まだあまり深く考えられていません。科学技術が一人歩きしていくと、いろいろな問題が起こります。世の中が便利になったのに、多くの人は疲れ果てています。

日本はこれまで「物」を一生懸命作って、豊かになったと喜んでいました。その生産の仕組みは、資源を使い捨てるような方法だったのです。しかし、地球資源には限りがあります。生物が体内で行っているような生化学反応に学んで、資源が循環して利用されていく生産の方法を、これからは生み出していかなければなりません。

生物系を謙虚に見つめてみますと、常に個と全体のバランスがとれています。細胞は、遺伝子の指令に従って働いています。一つは自分の細胞維持のために、もう一つは、他の細胞と協力して、器官や個体全体の維持のためにも見事に働いています。その時、その掟を破っているのがガン細胞です。自分だけドンドン増殖して、周りの臓器などを死に追いやり、その結果、身体全体がダメになり死亡します。その時は、細胞自身も死ぬのです。

人間は「我が身が大切」。しかし、他の人もまた、「我が身が大切」なのです。生きとし生けるものは、すべて「我が身が大切」なのです。その限度がすぎて、全体のバランスが壊れた時、全体が破壊します。大自然の思いに沿って働く時、素晴らしい力がでます。

人生の喜びは、それぞれの可能性が全体の調和の中で花開いてこそ味わえます。人間に与えられた可能性を、いかに活かすか。大きく花開くことを目指して、個人と全体がダイナミックにイキイキと生きていく。それが、より良い暮らしではないでしょうか。

これからは、それぞれの個性を認め合って、みんなと一緒に楽しもうという心が必要です。それが、最終的に世界全体の幸せにつながるのではないでしょうか。