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離島の町立高校よ未来に羽ばたけ

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年12月5日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2982号・平成28年12月5日)

11月初め、北海道奥尻町を訪ねた。奥尻島は北海道の南に延びる渡島半島の西に浮かぶ島で、冬の北海道では一番あたたかい島である。島内を走ると高原状の土地にも水田が造成されており、 豊かなブナ林のおかげで水にも恵まれている島であることが理解できた。

奥尻町は平成5年の北海道南西沖地震で津波の被害を受け、その後も過疎化が続いている。当時約4,500人だった人口は3,000人を切った。北海道本土の高校に進学する生徒もいる状況の中、 町は4年前に町主導で道立の奥尻高校の町立への移管を図ることを決め、今年度からの開校にこぎつけた。土地・校舎設備は道からの無償提供である。

町はこの機会に教育環境をさらに整えるべく、2つあった中学を統合して高校に隣接する新校舎を建設し、来年度から連携型の中高一貫教育を強力に進めることにした。その準備に怠りない高等学校長の俵谷俊彦氏は、 離島の高校をいかに活性化するかに燃えておられる。この欄でも紹介した島根県の隠岐島前高校にも学ばれて、 全国からの生徒の受け入れが可能になるよう規制の見直しを実現させ、「まなびじま奥尻プロジェクト」で島への留学生の増加を目指す。町では受け入れ先の下宿を確保し、 来年度からの留学生への生活費の補助も予定している。

以前からのスクーバダイビングの資格取得のサポートに加えて、ご自分の得意分野の英語教育を強化するとともに、教職員と生徒と町民が90分間英語のみで語るEnglish Saloonを創設、 さらに地元の人材にその人の活動や課題を語ってもらう「町おこしワークショップ」を高校で開催して、生徒の地域への思いを育てている。現地調査に来た縁で、 慶大生に生徒へのスカイプ個人指導をしてもらっていることなどICTスキルも高め、島の豊かな自然の上に特徴ある学びを育てようとしておられる。

筆者は5年前に、北海道に他県にはほとんど例のない町村立高校が多いことを知った。奥尻高校を入れて今17校ある。そしてその施設整備が過疎債の対象になっていないことを知り、 関係者と強力に働きかけた結果、幸い過疎債の対象に入れられた。関係者も、北海道のみの事例という認識があればもっと早く働きかけができたのではないかと思う。筆者の持論であるが、 自らの地域に存在するものやことが普遍的な事例なのか特殊例なのかを見極めることは、地域に勢いをつけるためにものすごく大切なことではなかろうか。