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今も輝く地域づくりの足跡-熊本県小国町の三〇年-

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年8月22日

早稲田大学教授 宮口 侗廸 (第2970号・平成28年8月22日)

この7月、2年ぶりに熊本県小国町を訪ねた。阿蘇山の外輪山の北の県境の山村であり、明治時代から杉の植林が行われ、かつて林業が栄えた町でもある。

小国町が当時の宮崎町長のもとで「悠木の里づくり」という地域づくりの構想を具体化させたのは30年前のことであった。 小国ドームで名をとどろかせた「小国杉による地域デザインづくり」という地域資源の活用の美学と、「未来に挑戦する小国人づくり」という、人を育て、 人の力で未来に通用する地域をつくっていくことが強く謳われている。その後昭和の旧村単位で、住民による地区の将来計画がつくられたが、 これはこの数年過疎問題懇談会で議論してきた集落ネットワーク圏の育成そのものである。1994・95年には、女性が200人近く集まって地域の暮らしを語る女性会議を開催し、 男たちが弁当をつくる側に回るというしゃれた企画すらあった。20年以上前にこのような取組みがあったことを、今の町村関係者にぜひ知って欲しい。

町と北里地区は、地区出身の北里柴三郎博士の提唱した「学びと交流」の舞台となる木魂館(もっこんかん)を建て、研究会や運動部の合宿などに供してきたが、さらに97年に財団法人「学びやの里」を設立して、 農山村の価値と新しい生き方を学ぶ九州ツーリズム大学を開講した。9月から3月まで毎月泊まり込みで、20年近くの間にのべ2500人以上が学び、ここから民宿やレストランを開業した農家、 早期退職して集落再生に取組む人、さらには地域づくりの専門家などが輩出された。現町長の北里耕亮氏も1期生である。岡﨑昌之先生は学科長として貢献され、筆者も毎年講義に呼んでもらった。

木魂館は開設直後から、前館長の江藤訓重氏の巧みな運営で価値ある交流の場になってきた。多くの学生が居候し、卒業後いろんな立場で地域に貢献しているが、その歩みは、交流がいかに人を育てるか、 そしてそのための場がいかに重要かを示して余りある。人口減少時代の今こそ、町村は交流によるパワーの増幅をまず目指すべきではなかろうか。

「学びやの里」では昨年から新たに「ムラの暮らし研究所」という6回シリーズの講座を開講中であり、来年度も開講の予定と聞く。今回の訪問はその講義のためであった。 企画する現事務局長の江藤理一郎君は訓重氏の子息であり、斬新な企画を考える一方で、経営感覚も鋭い。今後の展開に大いに期待するとともに、 木魂館が30年近く経ってもすばらしい形で活用されていることに心から敬意を表したい。