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小菅村と多摩川源流大学

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年11月17日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2899号・平成26年11月17日)

東京湾に注ぐ多摩川の最上流地域に人口750人に満たない村がある。山梨県小菅村である。かつては2000人以上が暮らしていた。この10月、その小菅村を35年ぶりに訪れる機会を得た。 経済地理学会のこの村での「農山村の新たな地域づくりの展開」と題するシンポジウムの講演の依頼が筆者にあり、これ幸いと引き受けたのである。

農林業の衰退の中ではあるが、清流を活用したワサビ栽培やヤマメなどの養殖が活気を呈している。そして、35年前に感嘆した急斜面の畑は、まだ何とか健在であった。ここは日当たりがいいため、 コンニャクは何度も冬を越して大きく育つ。斜面で働くお年寄りから、今も変わらぬ耕作法を確認することができた。

この小菅村に、多摩川源流大学がある。これは東京農業大学と小菅村の協力協定による、大学の正課カリキュラムを持つ学びの場である。農大の全学部・全学年に開放されているカリキュラムで、 実際に単位を取ることができる思い切った取り組みであり、大学関係者が常駐している。講座は、基礎コースとして源流域の自然・文化に関する座学と体験に始まり、 2年目の応用コースは森づくりや農家の弟子入りなどがあり、3年目には学生が自らテーマを設定する。この運営には住民講師の活躍が不可欠であり、地域に培われたワザは若者に大きな感動を呼び起こしている。 実際、学生時代に源流大学で単位を取り、今は地域おこし協力隊員として常駐している女性スタッフにも会うことができた。20代の若者が農山村に関心を持つ着実な流れが起きつつあるといわれるいま、 この大学の存在はきわめて貴重なものがあろう。

そして源流大学のある旧白沢分校の校舎には、NPO「多摩源流こすげ」と先輩格の多摩川源流研究所が同居し、連携を深めている。研究所には、 長年「源流の四季」を刊行して「源流学」を世に問うてきたつわものの中村文明氏が健在であることも頼もしい。東京都の水源林の山々の紅葉を眺めながら、 源流が人の営みのすべての源であることをあらためて思わずにはいられなかった。