早稲田大学教授 宮口 侗廸 (第2877号・平成26年4月21日)
この2月、沖縄の宮古島を訪ねる機会があった。平成21年度に過疎地域活性化優良事例表彰を受けた「ぐすくべグリーンツーリズムさるかの会」のその後を視察するための旅である。
沖縄本島と石垣島の間の宮古島は、面積は約160k㎡とかなり大きいが、全体が平らな隆起サンゴ礁で保水力を欠き、古来干ばつに悩まされてきた。 しかし平成10年には基部が泥岩であることを活かして本格的な地下ダムが完成し、農業条件が飛躍的に改善した。
平成17年秋には宮古島の4市町村と隣の島の伊良部町が合併し、宮古島市が生まれたが、宮古島東部の旧城辺町ではその前年、合併による地域の活力低下に危機感を持った有志によって、 農泊体験による地域の活性化をめざす研究会が誕生した。この会は視察や研修を経て「さるかの会」と名づけられて本格的な活動を開始したが、この間農家の仲間を増やし、 18年秋には31戸の農家で大阪の府立高校の修学旅行生260名の受け入れを実現した。そしてその後20年度には11校約3000名、22年度には24校約5500名、24年度には34校約8400名という驚異的な伸びを示した。 受け入れ農家も90戸にまで増えている。体験内容は農業と海の体験に加えて三線の指導もある。
公的な支援なしでここまで評価が高まっているのは、偏に島の生活そのものを素朴に味わってもらおうという姿勢による。 台風や干ばつという厳しい自然の中で歳月を過ごした人々の温かさは格別のものがあり、地域への強い思いも修学旅行の若者に穏やかに伝わるところがすばらしい。今回の旅でも、島を離れる生徒が、 離島式や空港へのバスで流す涙に接することができた。ちなみに「さるか」とはトゲがあって絡みつくと離れない低木のことで、人の縁を深めたい思いで名づけられたという。さるかの会は合同会社であり、 3人の女性が切り盛りする事務局を10人足らずの出資社員が支えている。
ただ、25年度の実績は26校6800人にとどまった。3年前から市の観光協会が同じような民泊事業を開始しており、その影響の可能性もある。 手づくりで始まった土着のツーリズムの盛り上がりと公的な組織の動きが競合しないような工夫を、ぜひとも願いたいものである。