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過疎対策ソフト事業に寄せて

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年5月21日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2800号・平成24年5月21日)

ソフト事業への過疎債充当が可能となってから2年余りが経過した。各市町村に見合うその限度額が定められているが、22年度の全国の 使用総額はその6割程度にすぎず、正直言っていささか期待外れであった。限度額近くまで活用した市町村とそうでない市町村が両極に分かれ、 県によっても相当のばらつきがある。債務を増やすことについて財政担当とのせめぎあいがあったと聞くが、市町村のソフト事業立案のパワー のばらつきを反映しているとも受け取れる。積極的に活用した市町村の多くは限度額の増額を要望し、当局は、総額の枠内に収まる前提で2倍までの 増額が可能になる省令によってこれに応えた。そして今、過疎法のさらなる延長の動きが伝えられている。

2年前の改正では、通常の内部管理経費等への除外はあるものの、ソフト事業への過疎債の使途を限定せずに市町村に委ねたことは画期的 であった。過疎地域の多くは地形も複雑で都市との位置関係も千差万別である。たとえば公共交通の脆弱さは共通項であるとしても、実際に これをどのように改善するかは、地域の諸条件を出発点として、地域からオリジナルに工夫するしかない。

筆者自身も昨年度から科研費を取得して、ソフト事業の実態調査を行っている。先ごろ訪れた大分県豊後大野市は、5町2村が合併して誕生 した広大な市であるが、合併前に旧緒方町で、スクールバス・患者輸送バス・町営バスを統合して4台のコミュニティバスを合理的に走らせる しくみが動いており、合併後に、全市域への拡充の作業が過疎債を充当して進行中である。ソフト事業のよい見本であると思うと同時に、旧町 レベルでこのしくみが立案されたことに敬意を表したい。

一方で、このような事業の立案をコンサルタントに丸投げする自治体もないわけではないことが残念である。地域を活性化するしくみは、 有能な職員と地域の人、そしてよいアドバイザーとの議論と学びの中に育っていくものだと思う。高知県は地域づくり支援課を置き、50 人を 超える職員を地域支援企画員という肩書で、いわゆる補助人として市町村に派遣している。市町村の自主性を尊重するすばらしいしくみと思う。 そして担当課では県内のソフト事業のフォローアップ調査を行い、その実績の把握と評価を独自に試みておられるが、これも県の姿勢のよい 見本ではなかろうか。