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棚田復元のパワーに感動

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年1月26日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2666号・平成21年1月26日)

昨年の11月、農水省系の「美の里づくりコンクール」関係の視察で、伊豆半島西南部の松崎町石部(いしぶ)地区を訪れる機会があった。石部地区はもともと伊豆半島に多い半農半漁集落であり、背後の谷沿いに18ほどの棚田がつくられていたが、次第に耕作放棄され、平成に入ってからは9割以上が原野化してしまった。

しかし平成8年、当時の高橋区長が棚田保全の機運の全国的な盛り上がりに刺激され、この棚田の復元を思い立った。この棚田は集落と海を見下ろし、そして海越しに富士山と南アルプスが望めるすばらしい位置にある。筆者らが訪れた日は、残念ながら富士山は雲に隠れていたが、南アルプスの稜線はうっすらと見えた。

氏は棚田の作業道やふれあい交流施設の整備を進める一方で、地区の総会に棚田の復元を提案、強い反対意見に対して、都市の人とのふれあい交流の場づくりの価値を訴え続けた。ようやく支持を得て復元作業が始まったのは平成12年1月、大勢の地元の人に「しずおか棚田クラブ」の人の応援を得て、約100日かけて4haの雑木・雑草を焼き払った。すばらしい石垣があらわれ、5月には15aに記念すべき田植えができた。この間の作業のビデオを拝見したが、本当に迫力のある感動ものだった。最近は県内の大学の学生グループのボランティア参加も増え、すばらしい交流の場に育ってきている。

いまは復元された4.2haのうちの2haの水田が棚田オーナー制度の下で耕作されているが、オーナー会費は年3万5千円で、これを管理しているのが「石部赤根田村百笑の里」と名づけられた地元の組織である。オーナー会員は日ごろの管理をこの組織に任せ、実際に作業する地元の農家には日当がわたる。オーナーは基本的に地元の民宿に宿泊するので、ここでも経済効果が生まれている。「みんなが笑顔に」の百笑という表現そのもののように、当日お会いした方々からは笑顔が絶えなかった。偉大なふるさとづくりに心から拍手を送りたい。