早稲田大学教授 宮口 侗廸 (第2600号・平成19年5月21日)
この5月中旬、今や徳島県で唯一の村となった佐那河内村を訪ねた。この村は、吉野川の南の園瀬川という小さな独立河川の上流にあり、徳島市に近いにもかかわらず地形は険しく、谷のどん詰まりには、みごとな石垣を積んだ棚田がつくられている。全国的に見ても、県庁所在地から車で30分程度の場所が、このような地形の上にあるのは珍しい。名高いスダチの産地でもある。地形を反映してこの村は多くの細かな集落からなっており、面積40平方キロ余りの2,800人の村に、ほぼ全戸が加入する常会と呼ばれる住民組織が47もあり、毎月定例会が開かれている。
この中の1つの地区で平成12年度に、視察に刺激されて、ゴミの分別が始まった。この動きが昨年の4月には村内全地区全世帯での実践というように展開したが、この展開の陰には、行政担当者が各地区でワークショップを仕掛けて、住民をその気にさせたことが大きく働いている。まさに協働を地で行く動きになったのである。結果は村内23箇所の集積所すべてにおいて、住民の手によって33分別の方式が確立し、2年間で1,300万円の経費が削減された。当局はこのプラス分を9歳未満の乳幼児医療費に充てる英断をし、住民に報いているが、協働の価値を住民が実感できることがすばらしい。
ゴミの分別リサイクルについては近くの上勝町が有名であるが、少し出遅れても、いいことをホンネで追求することが地域の未来をつくる。この動きはもっともっと多くの自治体で、協働による学習の上に立って、普遍化すべきであろう。佐那河内ではスダチと並んで、近年モモイチゴという、こぶし大の高級品種でも数億の売り上げを上げており、徳島市への通勤が容易である地の利の中で、地域発の価値がいくつも生まれていることは頼もしい。さらなる課題は、地区単位の動きと広域的な交流をいかに両立させていくかということであろうが、明治大学農学部のインターン受け入れなど、交流の取り組みも始まり、大いに期待が持たれる。