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漁師の心意気

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年2月19日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2590号・平成19年2月19日)

昨年11月、全国地域づくりリーダー養成塾のゼミ生と、尾道を起点に、多くの島々を縫ってできた西瀬戸自動車道いわゆる〈しまなみ海道〉で愛媛に向かった。最後の橋が、世界初の三連吊橋といわれる来島海峡大橋で、その手前が大島である。われわれはまず、その大島の旧宮窪町に、宮窪水産研究会の人たちを訪ねた。

この旧宮窪町の海は、潮の満ち引きで激しい潮流が渦を巻く。瀬戸の渦潮は鳴門だけではない。そしてこの潮流に洗われる魚は格別においしい。ここの漁協の有志たちが、多くの人にこの渦潮の迫力を伝えたいと、水産研究会をつくって潮流体験事業を始めた。もちろん、同時においしい魚を地元で食べてもらいたいと、〈宮窪の漁師市〉という、直販事業も伴ってである。平成17年度の過疎地域活性化優良事例の表彰対象にもなったので、ぜひ訪れたかったのである。

まず昼時とあって食堂に案内されたが、ここは、しまなみ海道が通じてから若い人が始めた店だった。橋が架かって船が要らなくなり、失業した人もいるというきびしい現実もあるが、それをプラスに活かしている人も確かにいた。さすが潮流に洗われているだけあって、ここのタイの刺身はすごい味わいだった。

山の上から潮の流れが目立ち始めた海を見下ろし、その後小さな漁船に乗せてもらった。漁師の藤本さんが操る船が渦潮のそばを激しい潮の流れに突入する中で、ガイドを務める漁協職員の藤本さんの解説はやはり絶妙で、かつての海賊たちの立ち回りを、迫力を持って実感できた。

いま農村ツーリズムが盛り上がりを見せる時代に、本来もっとユニークな存在である漁業関係者がもっと世間にホスピタリティを示して欲しいと、筆者はかねがね思っていたが、その期待に応えてくれる取組みに出会ったことが、何よりも嬉しかった。ただ、来年度からは漁協がより大型の船でこの事業を引き継ぐということである。かえって迫力が薄れるのではないかといらざる心配をしている。