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ポルトガルの伯爵邸

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年4月19日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2477号・平成16年4月19日)

この3月中旬、ポルトガルとイタリアへ出かけた。ポルトガルの南部はブドウやオリーブの果樹園が広がるが、北は緑が濃く、ユーカリなどの巨木もかなりある。小さな町の居酒屋では、農園で働いていた年金生活者たちが穏やかに飲んでいる。魚の塩焼きや、野菜との煮つけなどがよく食べられ、素朴な雰囲気が日本人をホッとさせるような国である。

今回は知人の案内で、北部のポンテ・デ・リマという町の近くの伯爵邸に泊まった。このあたりの斜面は野菜畑を囲むようにブドウ棚がつくられており、その特有の風景の中に、伯爵邸はあった。ポルトガルでは、ポウザーダという、かつての城や修道院を使った国営の宿が有名だが、それとは別に、個人が所有するお屋敷を提供する宿のネットワーク、〈お屋敷ツーリズム協会〉が組織されている。

伯爵の名はフランシスコ・デ・カリェイロスという。カリェイロス村のフランシスコ様という意味になろうか。かのフランシスコ・ザビエルの縁者の子孫だという。今もこの土地で16人が働く農園を経営し、一方で、農村ツーリズム協会の会長として、町に出勤している。立派なベッドが2つある豪華な雰囲気の部屋が朝食つき100ユーロで、庭からの落ち着いた農村風景が何よりも安らぎを与えてくれた。

伯爵は快活で親切な方であった。遠い昔日本に来たフランシスコ・ザビエルの縁者の子孫で、農村ツーリズムについて学んでいるところだという。屋敷の中に礼拝堂があり、別の部屋には古伊万里の大皿が何枚もあった。わが国でも、蓄積された風格を活かしたツーリズムがいい形で展開することを期待したい。

イタリアに立ち寄ったのは、水の都ベネチアを一度見ておきたかったからである。空間の使い方の可能性を議論する地理学者として、人間がつくり出した他に例のない空間は、観光地として俗化しているとはいえ、やはり知っておきたい。無数の水路の上の橋のすべてが階段の太鼓橋なので、荷物を運ぶのは船に限る。最後はホテルの船着場に水上タクシーを呼び、空港の港まで90ユーロを張り込んだ。ちょっぴりベネチア気分を味わって帰ってきたことになろうか。