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農村の器量の大きさ

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年10月6日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2455号・平成15年10月6日)

この9月、例年のように3年のゼミ学生を連れて津軽の相馬村を訪れた。相馬村は弘前市の西にあり、飛馬印のブランドで有名なリンゴの村である。専業農家も多い。毎年この時期に、学生を農家に泊めてもらい、農作業の中で農村を学ばせるようになって、もう12回目になった。平成4年春、相馬村を訪れて先進的な農家グループの〈炉辺懇談会〉のメンバーと懇談した機会に、「学生に農村体験をさせたい」と切り出したところ、「家族と同じ扱いでよければこの秋にでも連れて来い」と、頼もしい返事をいただいた。毎年15名前後の学生が出かけるので、お世話になった学生は200名近くになる。

平成4年は、大型台風の直撃で津軽のリンゴが壊滅した翌年であった。にもかかわらず出会った皆さんは暖かく、きびしい自然の中で暮らす器量の大きさを強く感じた。その後も村職員と農家グループで受け入れのプログラムがつくられ、交流の価値を重んじる山内一義村長も、いつも交流会に顔を出して下さっている。

この数年、相馬村のリンゴ農家の後継者のUターンが目立つ。初期には、「都会にいる子供が帰ってきたような」という気分の中高年の夫妻の受け入れが多かったが、最近では33歳までの後継者グループの〈農業青年の会〉が主体になってくれており、世代交代の中でいい関係が続いている。小さな子供がいる家も多い。村長はじめ何人かの人が、「早稲田の学生が毎年やって来る刺激が、地域の価値の再認識に繋がっているのではないか」といって下さるのも嬉しい。

これからという学生にとって、実社会という場の体験は価値があるに決まっている。近年さまざまなタイプのインターン事業が生まれている所以である。そして受け入れる側も、固定観念のない学生をうまく面倒みることによって刺激を受け、さらに力量をつけることができる。学生が本音で「日本は東京だけではない」と実感するためにも、ぜひ多くの町村に、学生をいい形で受け入れてもらいたいものである。