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シカ・イノシシを食べよう

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年6月23日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2444号・平成15年6月23日)

西日本を中心にイノシシの害が目立つようになってすでに相当の年月が経過した。山村には、トタンのフェンスで囲ったりネットを張り巡らした畑が増えた。奈良県の山村で、「フェンスで囲いたいんじゃが、そうするとワシが入れんようになる」と、イノシシがかじったジャガイモを見せてくれたおばあちゃんに会ったこともある。笑えない体験だった。

この問題の解決は難しいが、もっと積極的にシカやイノシシを食べることが、その一助になるのではないかと、筆者はずっと考えてきた。食材が米と魚に特化していった平野部に対し、山村はもともと多彩な食文化を持っていた。そこにはアワ・キビ・ソバなどの穀類に加え、山菜、淡水魚、鳥獣などを食べる料理法が育っていた。しかしわが国においては、この多彩さは、米がとれないというマイナスイメージにつながってしまった。

野生動物を種の危機に追い込むことは避けなければならない。しかし、もともと人の食の対象であった野生動物が増えてしまった今、積極的に食べることは許されるのではないだろうか。しかもそれはおいしい食材なのである。鉄砲を撃つだけの目的のために野生動物を殺したり、釣り上げた魚をリリースするスポーツフィッシングよりは、食べることによって成仏してもらうことの意義を考えたい。

フランスでは、シカやイノシシ、ウサギなどの獲物をジビエといい、多彩な料理がある。フランスの農家民宿で、ヤギのチーズと赤ワインと共に味わったイノシシはすばらしかった。わが国でも、奥地山村に行けば、必ず猟師の人がいて、何とかシカやイノシシを味わうことができるが、その食べ方はやや単調である。そしてそのための流通網がないために、フランス料理やイタリア料理に詳しい都市の人たちが、欲しい時に手に入るようにはなっていない。

幸い筆者は、日頃付き合っている地域の人がシカを送ってくれたりして、多彩な味を楽しんでいる。通販を含め多様な流通網が生まれて、全国でシカやイノシシが日常的に食べられるようになれば、農山村の小さな産業の育成にも繋がるのではないだろうか。