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個性重視で新たな活力を

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年9月9日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2411号・平成14年9月9日)

わが国ほど、みんなで同じことをやってきた長い歴史を持つ国はない。みんなで田んぼをつくり、よく似た農村を受け継いできた。そして農村からはみ出た人々は都市に押しかけ、そこでも同じように働き、一時は一億総中流といわれる生活をつくった。観光旅行も団体物見遊山型が主流で、「みんなが同じものを見て、同じように感心する」ことが、違和感なく繰り返されてきた。

しかしバブル経済の頃から、みんなが同じにはなれないということが当たり前だということがようやく理解されてきた。ようやく、自分の個性と感性で感動できる場を求める旅行が増えつつある。

今は小都市や農山村でも、落ち着いたたたずまいがあり、そこに居心地のいい宿があるだけで人が来るようになった。そしてこのような小さな宿は大量の客を必要とせず、その個性に合う人に来てもらえば成り立つ。そしてそこに、地域の伝統的な町並みや面白い手仕事などに触れるしくみが用意されていれば、その地域は旅行の対象としてますます価値を持つ。最近ではこのような個性重視の旅行とそのしくみを、観光旅行と言わずにあえてツーリズムと言うようになった。若者だけではなく、リタイアした熟年の旅行者のこのような旅行も大いに増えつつある。

地域はもともと同じではないし、一つ一つの農家もまったく同じではない。そしてその個性を磨き光らせるのは個性的な人の力である。大分県安心院町の<農村民泊>というグリーンツーリズムの方式が最近脚光を浴びているが、これは画一的な旅館業法の基準を避け、農家の個性を活かしてそのまま宿泊できるよう、会員制の宿泊制度をオリジナルに研究してつくり上げたものである。積極的に客を迎えて自分の個性を発揮したいという農家が参加しているために、料理やもてなしの研究も怠りなく、体験者の評判は極めてよい。

安心院町は交流を重視し、商工歓交課という名の課にグリーンツーリズム推進係長というポストを設けた。オリジナルな試みが、ツーリズムに関心を持つ農家と行政のパートナーシップから生れたことが、また評価できる。