ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 力ある他人の活用を

力ある他人の活用を

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年4月22日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2396号・平成14年4月22日)

コスト削減を求めて製造業が中国などにシフトしている今、わが国の都市経済の再生はそう簡単ではない。このような時こそ、今まで単調に流れてきた農山村の土地・空間の新しい使い方を内発的につくり出し、少数の人口であっても、生産活動が着実に持続するしくみを育てることに大きな価値がある。新しいしくみを育てるにはそれだけの力、すなわち人材が必要であるが、地域にそれだけの力があるとは限らない。しかしなければ借りればよい。他人の力を借りて、それについて行って力をつければよいのである。

岩手県の葛巻町という山村で、比較的なだらかな山々を1,100ヘクタールの大牧草地に変える国と県の事業が始まったのは、昭和五十年のことであった。ここで総合的な畜産業を育てようと、当時の高橋町長は葛巻畜産開発公社を設立し、そして民間農牧企業の草分けである小岩井農場から、エキスパートを公社の専務理事として派遣してもらった。まさに力ある他人に育ててもらおうとしたのである。

当初は夏期預託放牧と乾草生産販売の2事業からスタートしたが、その後は1年1商品の開発を合言葉に、「初妊牛の宅配便」、酪農の後継者のための研修事業、「葛巻高原牛肉」の販売、女子大生の牧場体験事業、本格的なレストランと宿泊施設の建設、乳製品の開発販売など、民間企業顔負けの発展を実現してきた。  外部からの専務理事は2代11年にわたったが、この間その片腕となって働いた役場職員が大きく成長し、ますますその成長を支えた。何もなかった山の中に、10億円の売上げを誇る70人の持続的な職場が生まれたことは、これが過去にはなかった新しい空間の使い方であるだけに、大変な価値がある。この、後を受け継いで10年間専務理事として事業を発展させた職員こそ、現町長の中村哲雄氏である。昨夏お邪魔して8年ぶりに再会を果たしたが、その意気ますます軒昂で、筆者もこの上なく嬉しかった。