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明日へ持続する価値づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年2月11日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2387号・平成14年2月11日)

過疎地域活性化優良事例として総務大臣賞に輝いた大分県久住町へ、8月に続いて12月にも立ち寄らせてもらった。全国町村会財政部会長の衛藤龍天町長の町でもある。

阿蘇から久住高原にかけては、ヨーロッパを思わせる広大な牧野が広がっている。食べるための家畜を飼わず、ひたすら低地の水田農業に依存してきたわが国では、2つとない、雄大で美しい風景であるといってもよい。そしてこの風景は、「野焼き」という人の営みによって維持されてきた。3月の野焼きに向けて9月に、「輪地切り」と呼ばれる防火帯づくりの作業があるなど、大変な労力がかかっているのである。

過疎化による人手不足の中、久住町では、平成7年に町外のボランティアの参加を募って、新しい形の野焼きをスタートさせた。危険だと二の足を踏む牧野組合の人たちを説得してこのオリジナルな取り組みを実現させたのは、旧自治省から大分県庁に出向していた山田朝夫さんである。その2年前に野焼きを体験した山田さんは、これこそ都市の人たちに自然との共生を実感してもらう価値ある場と時間だと直感した。

自然との共生の実践のとりことなった山田さんは、その後久住町の職員となり、自然の中でホンネで生きる仲間を増やした。本格的な循環農業に取り組む酪農家や、Iターンで花の栽培をする人もいる。

今回案内してもらったのは、白丹地区の白丹町という集落の、10日後に完成式を控えた集会施設である。ダム建設で水没する旧家を移築した建物で、傍には昨年移築した珍しい石積みの壁を持つ蔵が風格を添えている。ダム建設を無駄にしない、なかなか価値ある取り組みといえるのではないだろうか。この白丹地区の住民は、住民負担で温泉を掘り当て、すでに温泉つきの地区公民館を実現していることも頼もしい。明日へ持続する価値づくりがいくつも生まれていることに接し、嬉しくないことの多かった年の終わりの気分を一新することができた。