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山村に旨いものあり

印刷用ページを表示する 掲載日:2001年11月12日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2377号・平成13年11月12日)

飛騨の高山市と富山県の間に河合村という山村がある。この村が東京の中の東京ともいうべき麻布十番の商店街に、真夏に雪を届けてイベントを行うようになって足掛け13年になる。名づけて「かわいむらんど麻布十番納涼雪まつり」という。

この夏も、山間に保存されていた約60トンの雪が4台の大型トラックで運ばれ、人気のキャラクターや合掌造り、機関車などの雪像に仕立てられた。特産物も運ばれ、3日間で6,000匹の岩魚の塩焼きが完売したという。行政同士の連携と異なり、開かれた商店街が相手では、単純な見返りは期待できない。このような場に、価値あるものを送りつづけていることは、大変な心意気だと思う。

この河合村に、山間には珍しい旨いものがある。この村の上流には下小鳥ダムの大きな湖水があり、そこでは通称アメリカなまず、正しくはアメリカン・チャネル・キャット・フィッシュという淡水魚が養殖されているのだが、10年あまり前に村の宿泊施設にUターンしてきた調理師の吉川隆男さんが、ふぐに似た味わいに目をつけ、これをすばらしい料理に仕立て上げた。そしてこれを賞味した岐阜県の梶原知事が、「飛騨名物・河ふぐ料理」と命名したのだという。

8年前に初めて河ふぐにめぐり合い、この10月に河合村を訪れた筆者は、その料理がさらに工夫を重ねた素晴らしいものになっていることに驚かされた。フランス料理の修行をした吉川さんだけあって、ほのかに欧風を感じさせる部分もあり、手ごろなワインを用意すれば、都市からの客がさらに舌鼓を打つことは間違いないであろう。管理の水田順子さんのホスピタリティがあいまって、ロッジは黒字経営を続けている。

これらの試みをリードしてきた松井靖典村長は、大卒後村に帰り、20代で教育長に抜擢された人材である。筆者は大学院の時代にこの村を訪ね、直接話を伺った仲であるが、今の河合村の素敵な試みを見るにつけ、できる人に活躍の場を用意することがいかに大切かを思わざるを得ない。