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都市に森をつくる

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年12月21日

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2944号・平成27年12月21日)

「都市(まち)に森をつくる」。こんな志を抱いた企業がある。木造建築の会社、シェルター(本社山形市)である。森をつくるといっても、木を植えるわけではない。 鉄とコンクリートの街を「木造都市」に変えようという話である。

木造の街なんて震災に弱くて駄目さと誰しも思うだろう。ところが、この会社が開発した、柱や梁を金物で接合する独特の工法を用いた建物は丈夫で、 阪神大震災での揺れや東日本大震災の津波にも耐えた。続いて、同社が開発した、石膏ボードを木と木の間に挟む三層構造の木構造部材は、国土交通省の2時間耐火性能試験に合格した。 ガスバーナーを吹きつけて、鉄も溶けるような1000度に引き上げて2時間燃焼させても、石膏ボードの内側は焦げることもなかったという。この試験に合格した結果、法律上、 木造でも14階まで建てられることになった。もしもその気になればの話だが、東京の銀座通りを木造に一変させることも不可能ではない。 従業員110人ほどのローカル企業が「木造都市」への道を切り拓いたのは驚きだ。

同社の木村一義社長は、「鉄やコンクリートは製造過程で二酸化炭素を排出しますが、木は二酸化炭素を吸収して大きくなります。ドイツなどでは、 地球環境や健康に配慮して、『ウッドファースト』がトレンドです。まず木造で建てられるか否かを考えるということです。日本でも、これからは木造を選択する割合が増えるでしょう」と予測する。

木造でも安心とわかれば、住宅に偏っていた木材の用途が病院やオフィスビルなどの高層建築に広がるだろう。伐採期を迎えた山林を抱える山村にとっても福音だ。同社は「極力、 地元産材を使って公共建築を建てよう」という呼びかけもしている。多少建設費は高くついても、地元の雇用や税収に結び付くから、反対の声はないという。木材の地産地消の条件が整いつつある。