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置賜自給圏構想

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年10月20日

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2896号・平成26年10月20日)

「大きいことはいいことだ」という風潮に一石を投じたE・F・シューマッハーの『スモール・イズ・ビューティフル』には、「大量生産より大勢による生産」という言葉が出てくる。 物量ではなく人間を中心に考えれば、少数による大量生産より、大勢が関われる生産の方が優れているという。主に発展途上国の貧しい人々を念頭に置いた言葉だが、 人口減少で自治体消滅がささやかれる地域にも当てはまるだろう。

国が進める「攻めの農業」は、少数による大量生産を目指している。山形県高畠町で、長年、有機農業推進の先頭に立ってきた星寛治さんは、「これは、家族農業を一掃し、 一握りの大規模生産者に8割の農地を任せてしまう、現代の囲い込み(エンクロージャー)みたいなものです」と受けとめている。星さんたちは、「攻めの農業」に対して、 大勢が関われる「守る農業」を基本に立ち向かうつもりである。

山形県南部の3市5町で構成する置賜地域では、星さんも呼びかけ人となった「置賜自給圏構想」が動き出している。「食と農とエネルギーの自給を基軸にし、産、学、官、教育、福祉、 医療を結合することによって、地域循環型社会を実現しよう」という構想である。星さんは、「グローバリズムに対抗しようとすれば、地域の内発的発展に行き着きます。 外から地域資源を食い物にされることのないよう主権を住民の手に握ることです」と住民の心構えを説く。

置賜地域は、旧米沢藩の領地とほぼ重なる。「自給圏構想」には、上杉鷹山の地域資源を生かした藩政改革に学ぼうという志もある。 四里四方で採れたものを食せという「身土不二」の教えにも適う広さである。「農家以外の人でも、土や農に関わることができる道を拓き」、健康長寿につなげ、医療費削減のモデルをつくるという。 にわか仕立ての国主導の「地方創生」は、どこか押し付けがましい。歴史と土地に根ざした地域主導の取り組みこそ本物であろう。