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育てる力

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年3月10日

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2872号・平成26年3月10日)

あんなに若くて、あんなに小さくて、日本中の期待を一身に背負うなんて。女子スキージャンプの高梨沙羅選手の姿をテレビで見る度に、胸が痛んだ。 ソチ五輪では金メダル獲得は成らなかったが、金メダルに値したのは、その応対ぶりである。高ぶらず、言い訳せず、いつも周囲への感謝の思いに溢れていた。 競技終了後も、「支えてくれた人たちに感謝の気持ちを伝えるためにこの場所に来たのに」と残念がった。「あゝいい子を育てたものだ」と家族や指導者に対してはもちろん、 出身地の北海道上川町にも拍手を送りたくなった。

というのは、たまたまその前に秋田県東成瀬村を訪ねて、地域の「育てる力」を実感していたからである。東成瀬村は岩手、 宮城両県に接する人口2800人の村だが、「学力日本一」の呼び声が高い。「過疎の村なのに、どうして?」と内外から視察が絶えない。 鶴飼孝同村教育長は、「学力向上に特効薬はありません。きちんとあいさつするとか、人の話を聞くとか、当たり前のことが当たり前にできる子供をつくろうとしているだけです」と答えている。

村には、小学校と中学校が1校ずつ。児童・生徒は合わせて200人しかいないから、各学年とも1クラスだけ。全員が9年間一緒だから、兄弟姉妹のように親しくなり、 先生も1人ひとりに目が届く。いじめもなければ、不登校もない。まさに、「スモール・イズ・ビューティフル」である。

小中学生の75%は3世代同居の家族。授業参観などPTAの行事には祖父母も加わり、 出席率は120%にもなる。「村は一体となって子供たちを育てていこうという気持ちが強い」(佐々木哲男村長)から、子供たちは地域の愛情に包まれていると肌で感じられる。 これぞ村の教育力であろう。

人を育てる力は金を稼ぐ力より大切だという目で見れば、素直で賢い子供を育てる村や町の地域力評価は一気に高まる。子供を育てるなら、小さな村や町がいい。