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共感がつなぐ社会

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年8月22日

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2770号・平成23年8月22日)

方向は脱原発か、縮原発か。いずれにしろ、日本にも自然エネルギーブームが起きそうな気配だが、それを先取りした動きに、おひさまエネルギーファンドの取り組みがある。元はNPOから出発した会社だが、長野県飯田市を拠点に、せっせと太陽光発電の「市民共同発電所」づくりを進めている。資金集めは市民ファンド方式。1口10万円といった小口に分けて、広く出資を募る。これまで設けた4回のファンドの合計は約7億6千万円。出資者は延べ1,400人に達している。環境にいいことなら、一肌脱ごうという人は、結構いるのである。

東日本大震災でも、復興のために同じようなやり方をしている例がある。三陸周辺は日本有数のカキの産地だが、カキ養殖復興の資金集めのためのカキオーナー制がそれである。1口1万円の出資でオーナーになると、将来、復興が成ったあかつきには、カキを送ってもらえるという約束である。カキオーナー制の1つには、すでに2万口を超える応募があるという。お返しのカキはともかく、カキ養殖を守りたいという熱意に共感を示す人は随分と多い。

この分なら、志が高く、広く共感を呼びそうな事業なら、資金はかなり集められる。そう期待してもよさそうだ。ネット社会で道が開けた新手の資金集めである。日本には、1,400兆円余りの個人金融資産があって、国や地方の借金を支えているという。机上の計算だが、このうちの0.1%を市民ファンドに回すだけで1兆4千億円になる。船の大半を失った東北の水産業を復興させるのに十分だ。

経済活動といえば、損得計算第一というのが常識だが、その領域の一部でも、共感で成り立つものにしたらどうだろう。全くのそろばん勘定抜きでなくともいいが、まずは共感したものに出資するのである。人と人の縁を豊かにするのが主であり、儲けは二の次である。東日本大震災という大惨事に見舞われた今、共感がつなぐ温もりのある社会へと舵を切れれば、犠牲者も少しは浮かばれるというものだ。