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宝船が沈没する夢

印刷用ページを表示する 掲載日:2001年1月8日

評論家 草柳大蔵(第2340号・平成13年1月8日) 

「いまの日本経済は回復基調にあるなどという言い方は、ちょうど日本海溝(深度一万メートル)の上を泳いでいる人に、もう背が立つところに来ているから立ってごらん、といっているのにひとしい」「いまの日本はまだ大丈夫だというのは1986年、87年のロシアでむこう100年は安泰だ、といっているのにひとしい」

これから新年を迎えようというのに、凶々(まがまが)しい表現をお伝えして恐縮だが、この2つの比喩は2人の金融エキスパートから発せられたものである。2人とも東大を出て日銀に入り、1人は国際局の幹部になったのち国会議員(自由民主党)になった人、もう1人は日銀を退職後ファンド・マネージャーとして活躍している人である。

理由はなにか。まず不良債券だが自己査定で82兆円。これはわが国の国内総生産(GDP)の17%に当るが、昭和初期の恐慌時では不良債券はGDPの2.5%に過ぎない。アメリカの90年初頭の金融不況のときでさえ、GDPの3%だった。この不良債券を抑えるため多量の金が市場に流れ込み(過剰流動性の発生)インフレプレッシャーになっているが、一方、市場は供給過剰や安売りが原因のデフレプレッシャーが働いている。たいていの資本主義国が経験したことだが、一般にはインフレとデフレの2つのプレッシャーを収縮しながらバランスをとってきたが、日本は国債を発行することによって2つのプレッシャーを拡大しながらバランスをとっている。

国債を発行し続けているのは先進国の中では日本だけという恥しい事態になってしまったが、世界じゅうの機関投資家は、業務上、発行比率に比例したポートフォリオを組むので「なぜ、価格リスクのある日本の国債を買い入れねばならないのか」とアタマに来ている。そのため日本の国債の持ち時間をどんどん短くし、10年債→5年→3年→TB→FBとなってきている。これが現実だから宝船が沈没する初夢を見るかも知れない。