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しなやかな行政

印刷用ページを表示する 掲載日:2000年8月7日

評論家 草柳大蔵(第2325号・平成12年8月7日) 

地方経済の命綱となってきた公共事業がまるで“諸悪のモト”のように言われ始めた。国松善次氏(滋賀県知事)の指摘するように「公共事業は冬の時代という印象があるが、どんなに北風が冷たくても、その時期に種子を蒔かねば収穫できない果実もある」のが正論で、下水道から情報インフラまで、国民生活の基盤整備には、まだまだカネと時間がかかる。したがって、特定の人物や事業をよってたかって叩く“サンドバッグ社会”の空虚な音から冷静に仕事は進められるべきだが、同じ「公共」の仕事でも老人の保健や福祉の分野では、「市場の眼」を取り込んだ方が仕事はすすめやすく、内容は充実することを、坂本昭文氏(鳥取県西伯町町長)が提言している。

この提言は『自治総合研究』という専門誌に載ったものだが、行政経験に裏付けられた久しぶりの名論文である。

「もともと介護サービスは現金給付で行う社会保障制度とは違い、画一的な基準で供給できるものではなく(つまり制度措置にはもともと馴染まないので―草柳)家族や地域社会の実情に応じて供給する必要があるから現物給付を行うには地方自治体が最も適している。」

この発想を起点とした坂本氏の施策は住民に支持され、さまざまな福祉の花を咲かせてゆくのだが、「制度措置」の役所を「支援装置」に変えると、住民は「傍聴」から「参画」へ、財源は「国の補助金から地域住民の資産」へ、役場の職員は「牧民官」から「護民官」へと、行政がたちまちしなやかになってゆくのに、私は暑さを忘れた。