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ある町の乗馬クラブ

印刷用ページを表示する 掲載日:1999年8月9日

評論家 草柳大蔵(第2282号・平成11年8月9日) 

新しい全国総合開発計画(全総)のキー・ワードは2つある。ひとつは「参加と連携」、もうひとつは「生産型経済から交流型経済への転換」である。「参加と連携」については町村合併という行政上の顧慮がかなり重要な要素となるが、もうひとつのキー・ワードは町村の発想次第という面が強く、これからの文化現象として注目に値しよう。

一例を挙げると、平成9年度に国土庁長官賞を受賞した島根県金城(かなぎ)町のウェスタンライディングパークがある。要するに乗馬クラブを作って都会の青少年をひきつけたのだが、アメリカからクォーターホースを25頭輸入し乗馬クラブをつくったのがキッカケである。このアイディアの素晴らしいところは、馬糞を一年寝かせて堆肥をつくり、これを鋤き込んだ農地で老人に野菜を栽培させ、町営のレストランのバーベキューの食材として使ったり乗馬クラブにくる都市の人たちに土産物として売ってもいる。現在は全国少年少女乗馬スクールにまで発展し、この乗馬クラブと血糖値の下がるミネラル・ウォーターや温泉施設とともに、10年前には10万人程度だった交流人口が現在は40万人近くまで増えているという。「乗馬クラブ」といえば“お坊っちゃま・お嬢さま”のイメージが強かったが、誰が考えたのか、広島からバスで1時間20分という中山間地帯で見事に実現させた。しかもレストラン付き、温泉つき、ミネラル水(ハーブを入れた化粧水もある)となると、これからの国民的課題になる「生活習慣病対策」に先鞭をつけたことになる。

私の個人的感覚だが、町長の安藤美文(よしふみ)氏の人柄がおもしろい。たとえば、役場の建設課長には「いつも同じ道を通って帰ってはいけない。朝晩、違う道を通ってくれ」と申しつけている。それによって町の中の道路事情をキメこまかくつかむことができるというのである。「勇将の下に弱卒なし」というが、私は「賢将の下に愚卒なし」という言葉を思い浮かべている。