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大失業時代の読み方

印刷用ページを表示する 掲載日:1999年7月12日

評論家 草柳大蔵(第2279号・平成11年7月12日) 

厭なことを言うようだが、企業のリストラはこれからが本番だと心得た方がよさそうだ。第1は「会社あまり」である。私が言うのではなく、一時は“経営の神様”といわれたピーダー・ドラッカー氏の言葉である。1900年の当初、アメリカの自動車会社は1,500社だった。それが10年後には150社になり50年後には“ビッグ3”になった。このように企業間では競争によって収れん作用が起こるものだ。いまは花形企業のインターネット業もそのうち二社になるに違いない。これがP・ドラッカー氏の意見である。日本でも、新技術の登場や大型合併によって企業の数が減ってくる。現在はその流れに対して「会社あまり」なのである。これが人員整理の要因になる。第2は海外の格付会社による評価がスリムな経営構造を尺度にする。高収益を挙げているソニーが来年1月1日までにグループの上場会社3社を1社に整理し10%の人員整理(17,000人)をすることに世界の潮流を読むことができる。第3は、ほとんどゼロに近い金利はいまの日本にとっては異常値で、これが年金生活者の心理を暗くする一方で企業の自己革新をおくらせている。早晩、この異常値は正常値にむかって上昇するが、企業によっては有利子負債に見合って固定費の圧縮を断行せざるをえないだろう。第四は、これから3、4年もすると団塊の世代がいっせいに退職年齢に達することである。

以上の4つの理由によって、日本の失業率は悪くすると10%に達するのではないかという予測を近頃は目にするようになった。

通産省の試算によると、21世紀に成長が期待される産業は、流通物流(130兆円)情報通信(120兆円)医療福祉(90兆円)生活文化(40兆円)新製造技術(38兆円)などだが、地方にしてみれば旧来の産業構造から吐き出される人材を選(よ)り取り見どりできるチャンスだし、成長産業にとって魅力のある器づくりをする課題も見えてこよう。大失業時代も見方を変えれば「自立の時代」にもなるのではないか。