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道州制in済州島

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年10月7日

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男(第2856号・平成25年10月7日)

夏の唯一の行楽として、ツアー旅行に加わり2泊3日で日本とも深い関わりのある韓国・チェジュ島に行った。日本語堪能な地元の男女の方々にも2006年の道州制導入後の実情を伺った後、 事前に韓国の知人教授を通じて面談依頼をしていたチェジュ大学の専門家(康榮勳教授・同大学国際交流本部長)らにお会いし、発足後7年間の功罪を聴いた。

島内の東西の主要な観光地中心にバスで回ったが、実に美しい島。屋外広告物はほぼ皆無である。2004年に約55万人の人口が、特別自治道になって2013年8月中旬に60万人を突破した。 第三次産業を中心に若者が増えた。

道州制の導入にあたり既存の2つの市の市長直接公選と議会が廃止されたが、これは永住権をもつ外国人も投票権をもつ住民投票で決まった。現在、市長は知事任命である。島は広い。 道州知事、道教育監や教育委員は公選されるが、やや東西に長い1つの島は南北に2つの市があるだけで、人口は中心都市である北部のチェジュ市へいっそう集中している。 住民との距離を縮めるために、現在、基礎自治体である市の市長公選や市議会の復活などが話題となっている。

特別自治道庁の公式資料によれば、「自治分権 自治能力を高める基盤づくり」として、国防、外交、司法を除き、特別地方行政機関の道庁への移転、自治警察制度の導入、 監査委員会の新設・独立性の強化、教育制度など、権限が、基本的に全面移行された。ただ、道庁内に国家公務員と道の職員とが混在し、また、 警察や監査の分野では腐敗の防止や専門的人材確保の観点から、ソウルよりの単身者派遣も多い。教育制度が異なってくるので、学歴・進学問題も懸念されている。 他方で、米・英・加から大規模な小中高一貫制学園が島内でも不便な南西部に創設され、韓国本土どころか日本を含む外国から来ている児童・生徒も多い。 中国からの投資誘導のために外国人へのチェジュ島での永住滞在権、さらに永住権の付与も始まる。

チェジュ島での現状を垣間見た結論は、あっさり言えば、道州制には、国際化や超小規模自治体対策まで深耕すべき課題が無限にあるということである。

この道州制には光も影もある。資本力に弱い地元民に不利益がかなり出てきている。日本で道州制を考える場合、まだ根本の理念も詳細設計も不在というしかない。視野が狭く、視点も少な過ぎる。 賛否を問わず、チェジュ島の実情の真剣な実務的な調査が必要と思う。